2021.11.16 政府の気候変動対策のビジョン、有識者会議が報告書カーボンプライシングなど「仕掛け」重視
政府が推進する気候変動対策のビジョンや方向性を議論した内閣官房の有識者会議(座長=伊藤元重学習院大学教授)が報告書をまとめた。英国で開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に、岸田文雄首相に手渡された。炭素に価格をつけることで経済的なインセンティブを与えるカーボンプライシングなど、「仕掛け」の重要さに言及している。
会議は、2050年カーボンニュートラルを表明した菅義偉前首相の肝いりで3月に発足。日本経団連会長や学者らメンバー10人が、10月までに計7回の議論を重ねた。8月には、コンビニ最大手セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長らからの聞き取りなども実施した。
エネルギー政策の方針を定めたエネルギー基本計画や、温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みなどをまとめた地球温暖化対策計画といった「具体的な計画の上位概念を取りまとめた」(内閣官房気候変動対策推進室)のが報告書だ。
報告書では「50年カーボンニュートラルを実現するにあたっても、この10年が勝負」と位置付けた。また、8月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公開した文書で「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と初めて断定的に評価したことに触れた。
さらに、「政府の規制やインセンティブ措置をうまく組み合わせて、社会の意識や仕組みを変化させることによって、『成長にはカーボンニュートラルへの取組が必須』という仕掛けを強化し、経済社会を根底から変革させるグリーン・トランスフォーメーションを進めていくべき」だと指摘した。
仕掛けの一つとして具体的に示されたのが、カーボンプライシングだ。炭素に価格をつけ、経済的にインセンティブを与えて排出者の行動を変容させる施策で、欧州やカナダなどで導入が進む。内閣官房気候変動対策推進室によると、既に世界の温室効果ガス排出量の2割強がこの仕組みでカバーされている。
二酸化炭素(CO₂)の排出量に応じて課税する炭素税や、企業ごとに排出量を決めて上限を超えたり下回ったりした企業同士が売買する排出量取引、CO₂削減量を証書化するクレジット取引などの仕組みがあり、国内でも経産省や環境省が検討を進めている。
炭素税などの税方式であれば政府収入となり、脱炭素社会への移行に必要な費用の財源にも生かせる。報告書では、そうした「仕掛けを早期に具体化すべき」と提言した。
また、国民に「動機付け」していくため、日常生活でのCO₂排出量を「見える化」するなどの工夫が必要なことも指摘した上で、デジタル技術やブロックチェーン、AI(人工知能)の活用を「消費者の行動変容を下支えする基盤」と位置付けた。