2021.11.17 【InterBEE特集】ネット同時配信サービス進むNHKや日テレが開始、若年層の視聴意欲向上狙う
NHKプラス
多メディア時代におけるコンテンツの楽しみ方が多様化している。テレビのない環境でも、スマートフォンやタブレット端末、パソコンなどで、人気番組の数々を地上波と同時にリアルタイムで視聴可能なネット同時配信サービスが始まっており、テレビ番組の新しい楽しみ方を提供している。
NHKが先行して、昨年4月に放送同時配信サービス「NHKプラス」を開始した。今は放送受信契約の有無を確認するためのNHKプラスIDの登録が必要だが、新たにメールアドレスなど限定的な連絡先情報を入力してすぐに利用できるようにする「仮登録」制度の導入や、モバイルデバイスに限らず、テレビでも見逃し番組を視聴できる「テレビサービス」の開始を2022年度前半に予定している。もっと便利に使いやすくなる。
一方、民放局では日本テレビと系列2局の共同取り組みとして、昨年の実験を経て、今年10月に民放公式テレビポータルのTVer上で、無料ライブ配信「日テレ系ライブ配信」を視聴率の高いプライムタイム(午後7~11時)を中心に開始している。民放では日本テレビが先陣を切った形だ。
ほかの民放キー局も同時配信の検討を進めており、テレビ東京は12月、テレビ朝日は年明けに、TBSとフジテレビは今年度内の開始を目指している。放送と通信の融合がさらに加速しそうだ。
一方、番組で使用した写真や映像、楽曲などについて別に権利者の許可を取る必要がある著作権処理問題や、放送と異なるCMを同時配信用に流す場合の広告料の問題などの課題があり、その対応や配信内容が注目されている。
今年5月に放送番組のインターネット同時配信に必要となる、権利処理の円滑化を盛り込んだ「著作権法の一部を改正する法律案」が参議院で可決、成立した。改正著作権法は、放送番組の同時配信や追っかけ配信、一定期間の見逃し配信について、放送と同様の円滑な権利処理を実現する。権利処理に関わる手続きが簡略化されることで、視聴者や放送事業者、クリエーターにとって利益となることが期待されている。
NHKをはじめ、民放キー局などがネット同時配信サービスに注力する背景には、若年層を中心とした「テレビ離れ」がある。こうした流れが進む中、新たな視聴者を獲得するという狙いがある。
テレビ離れの原因はテレビ放送の番組コンテンツに魅力がない、インターネットやゲームなどほかのメディアの利用など、ライフスタイルの変化が挙げられる。
さらにインターネットを使った動画配信サービス事業者の積極的な参入も原因の一つ。このように、テレビ離れによって視聴率は低下し、テレビの広告収入は減少している。この影響から番組制作費の削減など、魅力的なコンテンツの制作が難しくなっているのが現状だ。
こうした状況下で、テレビ業界を取り巻く環境は厳しさを増している。電通が2月に発表した「2020年日本の広告費」によると、コロナの影響によるイベントや広告販促などの延期・中止により、国内総広告費は前年比11.2%減の6兆1594億円。そのうち、テレビは同11.0%減の1兆6559億円、インターネットの広告費は同5.9%増の2兆2290億円。インターネット広告費はデジタル化の加速化が追い風となり、前年に引き続きプラス成長となった。東日本大震災のあった11年以来、9年ぶりのマイナス成長となったという。
今後、こうしたインターネット配信を併用した視聴スタイルの多様化が進み、視聴者の利便性向上とともに、より魅力的な放送サービスで視聴意欲の向上が狙える。