2022.01.07 【製造技術総合特集】成長するMEMS産業高度なIoT社会を実現、世界市場26年までに2兆円へ

5Gなどへ期待高まる
政府、グリーン成長戦略推進

 1.MEMS産業の状況と今後の進展

 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)とは、半導体製造技術やレーザー加工技術など各種の微細加工技術を応用し、微小な電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだセンサー、アクチュエーターなどのデバイス/システムのこと。

 MEMSは小型・高精度で省エネルギー性に優れ、IoT(Internet of Things)社会を形成する上で、情報通信をはじめ自動車、ロボットなど多様な分野において、人と機械をつなぐデバイスとして多彩な研究開発、製品化が行われている。

 MEMS世界市場は新型コロナウイルスの影響により2019年と20年は低迷したが、21年には11%成長し、134億ドル(約1兆5000億円)に達した。その後も、1桁台後半の成長により、26年までにMEMSの年間収益は182億ドル(約2兆円)に増加すると予測されている(Yole社市場予測)。

 半導体不足による自動車や情報機器の立ち上がりの遅れ、新たなオミクロン株の脅威など新型コロナウイルスの影響にはまだまだ不確定要素があるものの、5Gやデジタルトランスフォーメーション(DX)の台頭により、RF-MEMSや各種センサーをはじめとするMEMSデバイスへの期待はますます高まっている。

 2.政府の動き

 地球温暖化がもたらす異常気象などで災害が激甚化し大きな社会問題となる中、日本は20年10月、「2050年カーボンニュートラル」を宣言。地球温暖化への対応を積極的に行うことが産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていくとし、「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策「グリーン成長戦略」を掲げた。

 また、デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進するため、政府は昨年9月にデジタル庁を創設し、国や地方行政のIT化やDXの推進を図ろうとしている。

 このようなグリーン&デジタルの追及の中で、省エネで環境にも調和しつつ防災やインフラ維持などを支えるとともに、フィジカル空間をサイバー空間に変換するためのゲートとも位置付けられるMEMSセンサーの重要性はますます高くなると考えられる。

新たなプロジェクトを立案
小型原子時計など開発へ

 3.マイクロマシンセンターの取り組み

 グリーン社会とDXの実現の方向性が議論される中、マイクロマシンセンターでは、いくつかのプロジェクトの実施と、新たなプロジェクトの立案を目指しているが、ここでは「小型原子時計」の研究開発と、「環境に優しいMEMSセンサ」および「学習型スマートセンシングシステムを応用したヒトセンシング」の戦略立案を取り上げる。

 「小型原子時計」は、高度なIoT社会を実現する際に不可欠な超高精度の時刻同期を可能にするデバイスである。「環境に優しいMEMSセンサ」は、屋外や自然環境下でのフィジカル情報を計測して社会全体のデジタルツイン(リアルDX)を構築するため、必要な環境に大量に設置されたセンサーを環境調和型にするためのプロジェクトを提案しようというもの。

 「学習型スマートセンシングシステムを応用したヒトセンシング」はヒトのリアルタイム情報を収集し、個人に最適なフィードバックが行える「感情センシング・フィードバックシステム」の戦略を立案しようとするものである。それぞれ以下に簡単に紹介する。

 3-1「小型原子時計」

 19年度から23年度までの予定で防衛装備庁の「令和元年度安全保障技術研究推進制度(JPJ004596)」の委託事業として、原子時計の小型・高安定化を図るために「量子干渉効果による小型時計用発振器の高安定化の基礎研究(HS-ULPAC=High Stability Ultra Low Power Atomic Clock)」を産業技術総合研究所、NEC、大真空とともに実施している。

 これまでに小型かつ低消費電力化が可能な熱容量の小さいウエハーレベルパッケージ振動子を有する水晶発振器、大量・安定生産が可能なMEMSガスセルを用いた原子時計量子部の一次試作やさらなる高精度化を目指したサファイアガスセルの気密封止技術を確立するとともに、機械学習を用いて周波数変動要因を解明する評価手法を開発した(図1)。

 また、磁場変動に対して周波数変動が小さい魔法磁場を有するとともに信号強度の高い量子干渉(CPT共鳴)効果の観測に成功するなどの成果を上げ、中間評価審査を終えた。現在は最終目標達成に向けて研究開発を進めている。

 3-2「環境に優しいMEMSセンサ」

 機械システム振興協会の20年度イノベーション戦略策定事業の委託事業として「環境調和型MEMS(EfriM=Environment friendly MEMS)技術の研究開発に関する戦略策定」を実施した。

 リアルDXの実現に向け、EfriMのインフラ、災害、農業分野におけるユースケース、自然に還る材料や自然の中に固定化する材料・デバイスおよび省エネ型製造技術を調査・検討するとともに、それらを組み合わせたシナリオを検討。絞り込みとブラッシュアップにより、インフラ、災害、農業分野で有望な六つのEfriMセンシングシステムを案出した(図2)。

 さらに、これら六つのEfriMの研究開発のために必要な横断的技術を、環境固定化技術、環境に還る技術、共通基盤技術の三つの項目に整理し、EfriMの研究開発と社会実装のための戦略を策定した。

 昨年7月、この成果を基にマイクロマシンセンターのSSN(Smart Sensing&Network)研究会の中にEfriM-WGを立ち上げ、本格的なプロジェクト化への提案準備を行っている。

 3-3「学習型スマートセンシングシステムを応用したヒトセンシング」

 技術研究組合MEMS技術研究機構では、IoTシステムの研究開発として、NEDO委託事業「超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究開発(16~21年度)」を受託。エッジ(環境発電無線センサー端末+コンセントレーター)処理だけで有価情報を収集・解析できるシステムの開発を目的として、工場のさまざまな設備機器をセンサーフュージョンにより稼働状態と関連性の高いセンサー信号の自動抽出・状態変化を検知するアルゴリズムを搭載したコンセントレーターを開発した。

 このエッジシステムは設備・機器のセンシングにとどまらず、ヒトのリアルタイム情報を収集・利活用するIoH(Internet of Humans)として、生産性向上や知的業務の成果が求められる従業員の健康状態のセンシングにも応用できる。

 そこでマイクロマシンセンターは、次期の研究開発戦略立案を目指すIoHシステムの検討を進めている。そのイメージと特徴を図3に示す。

 まず既存および革新的ウエアラブル生体センサーを組み合わせ、感情・心的状態に関わる特徴量を抽出する。一方でウエアラブルセンサーと脳波センサーとの相関分析により、ウエアラブルセンサーだけで感情・心的状態を推定するアルゴリズムを開発しスマホなどに実装する。

 そして、ウエアラブルとアンビエントの情報から、内部状態の可視化や外部要因を理解することによって、個人に最適なフィードバックが行えるシステムを実現しようというものである。今後さらに検討を深めていくことにしている。

 〈筆者=マイクロマシンセンター〉