2022.08.05 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<97>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤⑨
連日の熱帯夜で、寝苦しい日々が続いている。筆者はエアコンが苦手な体質なため、なおさらこたえる。そうした中でも仕事は頭が一番さえている早朝から昼前までが勝負だと考え取り組んでいる。というのも最近は午後になると、うだるような暑さと睡眠不足の相乗効果で猛烈に睡魔が襲ってくるからだ。
その時は気分転換が一番で、先週末は歌舞伎『番町皿屋敷』を見に行った。怪談で涼を取ろうと思いきや、最後まで熱い恋愛話で幽霊は現れなかった。観劇したのは怪談ではなく、岡本綺堂が悲恋話に仕立てた戯曲が元になっていたようだ。
さて、新型コロナウィルス感染第7波が急拡大している。ウクライナをはじめ世界情勢も混迷を深めており、原油価格や食料価格の高騰も心配だ。事実は小説より奇なりで、怪談話より怖い。
このシリーズでは、不確実なVUCA時代を「DXによるビジネス変革」で乗り切ろうと、各回で解決策について触れてきた。しかし、これを阻むものとして組織には「変革を阻む六つの障壁(サイレントキラー)」が存在することを第93回で指摘した。
その中の一つ目の障壁「方向性の見えない価値観」については、自社のパーパス(存在意義)を明確に掲げれば打破できると述べた。現場の人手不足の解消のためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、スマートファクトリー化するというパーパスを掲げればよい。
二つ目の障壁「トップダウン的な推進スタイル」と関連の「人材開発の関心の乏しさ」を打破するためには、DXを変化に柔軟に対応するアジャイルで推進する有志によるボトムアップ型の活動を全社一丸となり協力・支援する環境づくりが不可欠になる。それには全社員対象の「DXリテラシー教育」が有効だと解説した。
ITとOT
そして今回と次回で、最後の三つ目の障壁「組織設計の不備による連携欠如」をいかに打破するかについて考えてみたい。
製造業の多くは生産技術部が管理する工場と、情報システム部が管理するオフィスに分かれる。後者は周知の「IT(情報技術)」の世界だ。前者は「OT(運用技術)」と呼ばれる世界だが、社会生活の至る所で必要とされている割には、あまり知られていない。
製造業などの生産に関連する産業機器をはじめ、材料や部品から製品まで一連の生産設備である産業プロセス資産の監視や制御のほか、エネルギーや交通、運輸などの社会インフラを安定稼働させるための監視や制御を行うのがOTで、ITが登場する前から存在している。詳細は第54回で触れた。
ICSで制御
ここでは製造現場のOTについて、もう一歩踏み込みたい。このOTの実体は「産業用制御システム(ICS)」で、製造現場においてコンピューターによる生産設備のシステム監視やプロセス制御を行う。
具体的には、産業用ロボットなどを制御するプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)などからの情報を一カ所に集めて監視し、必要に応じて制御するものだ。
狭いエリアの中で複数のロボットや人が協働するケースでは、厳しい時間制約の中で、リアルタイム性と同時に、停止や誤動作が許されないミッションクリティカルな厳しい環境が求められている。
IoTからのデータを活用するITの世界とは大きな違いがあるが、スマートファクトリーなどを実現していくためには、OTとITが連携しなければ高度化しない。
しかし実態は、OTとITは分断されているのが大半だ。両者を融合させるのが、次回説明する産業用IoT(IIoT)とローカル5Gになる。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉