2022.08.30 【ソリューションプロバイダー特集】5Gローカル5Gの競争激化、実証環境提供体験施設の開設が相次ぐ

NECのCONNECT 5G Lab

「FUJITSUコラボレーションラボ」ではAGVの動作実演などを見ることができる「FUJITSUコラボレーションラボ」ではAGVの動作実演などを見ることができる

 高速大容量・低遅延・同時多接続が強みの第5世代移動通信規格5Gを地域限定で使う「ローカル5G」が、実証段階から実用化に向け、本格的に動き出した。IT各社は、ローカル5G基地局の導入コストを抑えて手軽に実装できる製品を続々と市場に投入。企業関係者に導入のメリットを体験してもらう5Gラボも相次いで立ち上がり、ローカル5Gを巡る各社の主導権争いは激しさを増している。

 2019年12月に免許申請がスタートしたローカル5Gは、実証段階から実用化に向けた取り組みが本格化。昨年末ごろから、実証から実用化に向けた動きが加速しており、ITや通信大手各社が実際の導入環境に近い検証施設を相次ぎ開設している。

共創の場を拡張

 NECは6月、5G導入を目指す企業に実証環境を提供する体験施設「NEC CONNECT 5G Lab(コネクトファイブジーラボ)」を川崎市中原区の玉川事業場に開設。2年前に同所にオープンした「ローカル5Gラボ」をリニューアルし、クラウドと連携したロボット制御やドローンの自律飛行などの取り組みを実演できるようにした。

 ローカル5Gに限らず幅広くネットワーク事業を強化し導入を本格化させるとともに、顧客企業やパートナーとネットワークを活用した共創の場を整備拡張するのが狙いだ。

 ローカル5Gだけでなく、携帯電話事業者が提供するキャリア5GやWi-Fiなど、多彩な実証環境も用意している。クラウド経由でロボットや油圧ショベルを遠隔操作する実演を体験できる。実装したい企業はビジネスデザイナーと、本格導入に向けたユースケースを共に作り上げていく。

 屋外でのローカル5G活用を支援するのは富士通だ。広大なエリアが必要なローカル5Gの屋外検証には、実施場所や期間などの条件に沿う環境を臨時に構築する必要があったが、専用の検証環境を、通信機器の製造拠点である那須工場(栃木県大田原市)に常設した。

 約1万5000平方メートルの敷地で、住宅密集地では検証が難しいドローンの高度20メートルまでの飛行実験や、AGV(無人搬送ロボット)の広範囲での運行試験など、屋外でローカル5Gを活用する際の技術検証を展開。屋外施設の設備点検や侵入者検知、河川や山斜面の監視を模した検証など、現場へローカル5Gを実際に導入する前に、制御の妥当性やシステムの保全性、連結試験などシステム全体の動作を確認できるようにした。

 20年10月に開設した屋内検証環境「FUJITSUコラボレーションラボ」(川崎市幸区)と連携し、屋内動作検証から実際の運用に近い屋外での検証まで行える。

 同ラボで精力的に行われているのが、5Gと高精度位置測位技術に人工知能(AI)を組み合わせた、人とロボットが協調作業できる仕組みづくり。5G対応の高精細カメラとAIが連携してミリメートル単位で人や物の位置を測定し、仮想空間にマッピングしてAGV(無人搬送ロボット)と人の動線を見える化する。搬送などの業務効率化につなげようという試みだ。

 ラボ内には、複数のローカル5G対応高精細カメラを天井に設置。広範囲にわたりミリメートル単位で人やAGVの位置を高精度に測定できる。現場の担当者は「位置測定の精度は20~30センチメートルの誤差が一般的とされるが、1~2ミリメートル程度の誤差を実現した」と胸を張る。

 正確な測位情報と、AIが画像から検出した人やAGVの情報を組み合わせ、仮想空間上にリアルタイムで座標変換。マッピングして見える化し、リアルタイム座標と周辺情報によりAGVを制御し、仮想とリアルの重ね合わせで人とロボットの協調作業の実現を目指す。

 他社に先駆け、東京大学と共同で20年2月に検証環境「ローカル5Gオープンラボ」を設立したNTT東日本は5月、同ラボを起点として、地域循環型社会の実現に向けた実証体感フィールド「NTTe-City Labo」を東京都調布市のNTT中央研修センタ内に立ち上げた。

 同時期に提供を始めた、ローカル5G導入をワンパッケージで行う新サービス「ギガらく5G」が体験できるほか、ローカル5Gを活用した次世代農業環境を備えた実証ハウスを整備。実際の遠隔営農指導の様子などを見学できる。

ミリ波展開が焦点

 今後の焦点となるのが「ミリ波」の展開だ。現状では、大半のシステムの周波数帯は、通信速度は遅いが電波が届きやすい「Sub6(サブシックス)」を利用している。

 通信速度は速いが、エリアが狭いミリ波(28ギガヘルツ帯)の展開について、富士通5G Vertical Service事業部の上野知行シニアディレクターは「当面は低価格になっているSub6が成功するのは間違いない」とした上で、「ユースケースを増やしていかないと6Gにつながらない」とし、ミリ波の活用を強化していく方針を示した。

 政府は、デジタル技術で地方と都市の格差を解消して地域活性化につなげる「デジタル田園都市国家構想」において、5Gの人口カバー率を、現在の3割程度から23年度には9割に引き上げる目標を掲げている。

 調査会社のIDCによると、国内の5G基地局は20年度末の推定約2万8000局が、23年度末には25万局を超えると予測されている。今後さらにサービスエリアが拡大し、投資額も増加するとみている。