2023.01.04 【家電流通総合特集】家電流通でD2Cが存在感
マクアケは昨年9月、プロジェクトが成功した商品をいつでも買えるECサイトを開設
マクアケなどクラファンに注目 家電量販店でも手応え
家電流通で「D2C」が存在感を増している。クラウドファンディングなどを使い、スタートアップや新規参入メーカーだけでなく、大手メーカーも含め、市場性を探るマーケティングを兼ねて取り組むケースが目立つようになった。家電量販店がプライベートブランド(PB)商品を発売するのにクラファンを活用するなど、変化しつつある消費行動に量販店も注目する。D2Cは、商品に込めた思いや世界観などをメーカーが消費者に直接伝えることができるため、ファンづくりにもつながる。その拡大は、多様化するニーズに応える一手であることが背景にあり、今後の家電流通の在り方にも課題を投げかけている。
2兆4584億円。
これは、経済産業省が昨年8月に公表した、2021年における家電関連の国内EC(電子商取引)の市場規模だ。店舗販売などを含めた全ての取り引きに占めるEC化率は38.1%で、取り引き金額と合わせ、家電のEC利用は前年より進んでいる。日用品や家具、雑貨、インテリアなどの物販系全てを含むEC市場規模は、21年で13兆2865億円と前年から1兆円以上拡大。家電関連のEC市場は、物販系の中では食品関係に次いで大きな規模になっている。
◆利用が広がるD2C
消費者の間でEC利用が進む中、注目を集めているのがD2Cだ。応援購入サービス「マクアケ」やCCC系「グリーンファンディング」などのクラファンから、部屋の実例写真を共有するSNS「ルームクリップ」に投稿された写真の商品を直接買えるサービスまで、メーカーの直販サイトにとどまらず、D2Cは広がりを見せている。
量販店の店頭などの販路に流通させるには、一定規模の量を作る必要があり、新興企業にとっては資金面から断念せざるを得ないこともある。D2Cは、商品流通の敷居を下げる販売手法の一つである上、消費者と直接つながることで、商品に込めた思いを伝えたり、フィードバックを得られたりと次につながる展開もできる。
そうした中、メーカーと消費者の架け橋として存在感を示すのが、マクアケだ。同社で進むプロジェクトの半分以上が家電やガジェット系の商品。坊垣佳奈共同創業者/取締役は「日本のものづくりの課題として、中小企業はマーケットへのアプローチに慣れていない」と指摘。マクアケは、社会にまだ知られていないような商品を表現する場と強調する。
マクアケの売り上げは22年9月期で42億円。応援購入総額、いわゆるプロジェクトで集めた金額の総額は同198億円で、19年9月期に比べると3.6倍に増えている。
巣ごもり需要でマクアケの利用も21年9月期に大きく伸びたため、前年度比では減少しているものの、同社が「0次流通市場」と位置付ける新商品のECデビュー市場は日本で1兆円規模と推定。その獲得に向けて、マクアケでプロジェクトが成功した商品を継続的に買えるECサイトの立ち上げなど、さまざまな施策を打っている。
◆量販もクラファン利用
マクアケは、スタートアップや中小企業の利用ばかりでなく、パナソニックやソニー、キヤノンなどの大手メーカーでも利用が進んでいる。
量販店大手のエディオンも昨年6月、チューナーレステレビの先行予約販売を実施。予定数を即完売したことに手応えを得て、8月26日からは、4Kチューナーレステレビ2機種(43V型、50V型)の一般販売に踏み切っている。
マクアケをはじめとするクラファンは、商品に対する消費者の反応をダイレクトに知ることができる。本格展開前のマーケティングの一環として、販促費のような感覚で利用するメーカーも少なくない。
家電流通に密接に関わる家電やガジェット系のプロジェクトが多いため、マクアケを経て店頭展開といった流れも増えている。量販店にとっても、マクアケをはじめとするクラファン事業者とそれを利用する消費者の動向は、これからも目が離せない。
◆生活シーンから購入
「多様化への対応はD2Cがキーワード」。そう強調するのは、ルームクリップ(東京都渋谷区)の髙重正彦社長CEOだ。
ルームクリップが運営する同名のSNSは、部屋の実例写真が500万枚以上投稿されており、日本最大のインテリア写真共有サービスをうたう。21年3月には、部屋の実例写真から商品を購入できるサービスも開始。昨年6月にはベイシア電器が出店するなど、量販店もそのサービスに熱い視線を注ぐ。
背景にあるのは、生活シーンに即した商品提案の強化だ。住空間に溶け込むようカスタマイズした商品でなく、一般家庭の中で汎用(はんよう)品がどのように設置され、使われているか。それを実際の写真で確認できるのがルームクリップになる。既存の量販店にとっても、リアル店舗で生活シーンの提案に生かす参考データになり得る。
ルームクリップのユーザーは、自分が作りたい住環境を求めて実例写真を閲覧しに来る。共感できる住環境であれば、そこに置かれた家電や家具などと同じものが欲しいという心理が働く。十人十色の住環境の中、同じ商品であっても置かれた空間によって見え方も変わる。「現在はマストレンドがあるわけではない」(髙重社長CEO)と指摘するが、個々のニーズ全てに応える商品をそろえることは事実上、不可能とも言える。だからこそ生活シーンにおける「見せ方」が、リアル店舗でもECでも鍵を握る。
量販店、ECとリアル融合に注力
◆量販EC戦略の行方
EC戦略は、量販店にとっても今や事業拡大の要だ。最大手ヤマダホールディングス(HD)のEC売り上げは21年度で1400億円を超える規模となり、今年度も拡大基調が続いている。
量販店は、EC事業の強化で、リアル店舗を持つ強みを最大化しようとしている。
ヤマダHDは、全国各地にある店舗網をEC事業における物流拠点に活用する体制を整備している。超大型店「ライフセレクト」や、リアル店舗とネット通販との融合を目指す「YAMADAウェブ・ドット・コム」店などを生かした戦略を加速する。
上新電機は昨年7月に大阪府茨木市で新しい物流センターを稼働させた。稼働前に対して保有アイテム数は2割増、EC出荷能力は倍増させており、EC事業の拡大に本腰を入れている。
ヨドバシホールディングス(HD)やビックカメラなども、自動化などを通して物流拠点の整備に力を入れる。
また、各社は、ネットで注文した商品をリアル店舗で受け取れるサービスも整えている。このサービスは物流コストの低減や、ECからリアル店舗への送客など量販店にとっても利点は大きい。ヤマダHDは、昨年11月3日にオープンしたテックライフセレクト仙台あすと長町店(仙台市太白区)に、ECサイトで注文した商品を店舗外に設置した宅配ロッカーで24時間受け取れるようにするなど、社会環境の変化に合わせて、DXを活用した新たなサービスの提供にも乗り出している。
これからの社会では、ECは必要不可欠な購入形態となった。国内のEC市場が右肩上がりであることは経産省の調査からも明白で、量販店が扱う商品もECで取り引きしやすいものが多い。少子高齢化で国内の家電市場の縮小が予想される中、量販店もEC市場で存在感を示していく必要がある。