2024.06.07 【やさしい業界知識】ボリュメトリックビデオ

ソニーのボリュメトリックキャプチャースタジオ

360度全方位から視聴可能
AI活用し空間を3Dデータ化

 幅広い業界でXR(クロスリアリティー)活用への取り組みが進む中、次世代のXR表現として、ボリュメトリックビデオ(自由視点映像)が注目を集めている。

 ボリュメトリックビデオ技術を活用し、自由に視点が変えられる3D映像により、リアルなライブでは表現できない映像演出、カメラワークを実現する。

 ボリュメトリックビデオは、スポーツやエンターテインメント、音楽、ファッションなどのあらゆる分野で活用の幅が広がっている。被写体を3次元で動画のように撮影・計測する手法「ボリュメトリックキャプチャー」で作成されたデータで、人物・位置・動きなどの空間全体を3次元データ化し、AIのアルゴリズムを活用して、撮影とほぼ同時に3D映像を自動で生成できる。360度全方位から視聴できる映像の生成やVR(仮想現実)/AR(拡張現実)と組み合わせて新たな体験を提供することができるなど、多くのコンテンツを生み出すことが可能だ。

 特長として、複数のカメラで撮影された映像をつないで切り替えるのではなく、3D空間データを生成する。3D空間データであるため、空間内の自由な位置、角度からの映像コンテンツを生成でき、3D空間データを変換することで、2Dの自由視点映像、3D空間データを生かしたVR/ARコンテンツなど、さまざまなアウトプットを提供できる。

複数カメラで撮影

 ボリュメトリックビデオで3D映像を生成する方法は、数台から数百台近いカメラで被写体をさまざまな角度のカメラで撮影し、被写体以外のブロックを削ることで被写体を3Dデータ化し、背景と被写体の3Dデータを合成する。

 ボリュメトリックデータの利用方法として、自由視点映像として使用する2D映像と、メタバースなどの3次元空間で使用する3Dデータの2種類がある。

 これまで3次元のコンテンツを制作するには時間とコストが相当かかっていたが、このボリュメトリックビデオの登場により、クオリティーを守りながら、制作が簡易化され、コストも大幅に削減することが可能になる。

技術課題の解決へ

 一方で、データ量が大きくなりがちなボリュメトリックビデオの圧縮や符号化技術、それらに対応したエンコーダーやデコーダー、データを高フレームレートで表示できるレンダリング技術などの技術的な課題はある。こうした技術に対して研究開発を進めており、近いうちに解決すると予想している。

 また、背景にグリーンバックを使うことも多く、撮影後にその3Dデータを別空間に配置することで、バーチャルプロダクションの一手法として位置付けられることもある。しかしながら、そのグリーンバックでの撮影は、透過してしまう素材を3D化するのは難しいと言われている。

 ソニーPCLのクリエーティブ拠点「清澄白河BASE」内のボリュメトリックキャプチャー技術での映像制作に特化したスタジオや、キヤノンのボリュメトリックビデオスタジオ-川崎など、ボリュメトリックの専用スタジオが増えつつある。

 現在、撮影装置のあるボリュメトリック専用スタジオでしか撮影できないが、撮影装置の小型化・可搬化に伴い、撮影コストの低価格化も進み、より多くのボリュメトリックデータが増えることも期待されている。

(毎週金曜日掲載)