2025.07.27 大阪万博期間中の「バーチャル未来の都市」に熱視線 KDDIに魅力を聞く
KDDIブランドマネジメント部大阪・関西万博準備室の山田健太室長(左)と同社事業創造本部LXサービス推進部2Gの松村敏幸グループリーダー=東京都中央区
未来を支える技術やアイデアと出合える――。そんなインターネット上の仮想空間(メタバース)に実現した「バーチャル未来の都市」に注目が集まっている。KDDIが日立製作所をはじめとする各社と共創した仮想都市だ。参加者はバーチャルの分身「アバター」を介して空間内を散策しながら、身近な課題を中長期的な視点で考えることができる。KDDIを取材し、仮想都市に込めた思いや魅力を浮き彫りにする。
バーチャル未来の都市は、大阪・関西万博の会期中に実現する「203X年の仮想の街」だ。参加者は、パソコンやスマートフォンで専用アプリをダウンロードして自分だけのアバターを作成するだけで、仮想都市に入り込める。
最初に待ち構えているのが、「未来研究所」の所長だ。参加者が所長から指令を受けて街に飛び出し、未来の姿を探るためのヒントを集める「ミライリサーチ」に挑戦。スポットを巡って「リサーチノート」に記録するというミッションをこなしながら、住民との出会いや発見を楽しむ。
リサーチノートは、参画各社の技術を活用した社会課題の解決策を体験すると、更新される。最終的に、リサーチノートを完成させてレポートを提出すると、デジタル資産の所有を証明する特別デザインの「非代替性トークン(NFT)」を獲得できる。
参画各社の技術と出合う
例えば、日立は労働力の減少や設備の老朽化を背景に地域インフラの存続が難しくなっているという課題を踏まえ、「地域インフラと利用者の関係性の変化」というテーマに注目。鉄道の保線業務の一部を手伝うゲームを企画した。参加者は、ゲームを通じてインフラ事業者を支える意義について考えることができる。
さらに、「未来の食と農業」をバーチャル体験できるクボタの展示も見どころで、農業生産の現場で活躍する未来のロボットが登場する。また、カナデビア(旧日立造船)は、未来のクリーンエネルギーに貢献する製品をバーチャル上に実現。洋上風力発電の壮大なスケール感を体感できるようにしたほか、風車の電力から水素を生み出す「水素発生装置」と生成した水素を二酸化炭素(CO2)と反応させてメタンを作る「メタネーション装置」も展示した。
商船三井が開発中の水素生産船「WIND HUNTER(ウインドハンター)」も必見だ。帆で風を受けて船を推進させ、その動力を使って海水からグリーン水素を製造・貯蔵・運搬し、陸上にエネルギーとして供給するという未来の船だ。そのほか、川崎重工業、関西電力送配電、神戸製鋼所、IHI、青木あすなろ建設、コマツも参画した。
ビジョンを考えるきっかけに
KDDIブランド・コミュニケーション本部ブランドマネジメント部大阪・関西万博準備室の山田健太室長は「バーチャル未来の都市に込めた『自分たちの生きていたい未来を考える』というメッセージを感じてほしい」と強調。続けて、「30年代になると、水素エネルギーが社会に広がり、ドローン(小型無人機)の配送システムや完全無人の農業ロボットの実装も進む。参画企業が考える多彩な未来の技術が散りばめられた仮想都市の魅力を体験してほしい」とも述べた。
同社事業創造本部LXサービス推進部2Gの松村敏幸グループリーダーは、時間と場所の制約を取り払うメタバースを活用する意義に触れ、「万博会場に足を運べない人が遠隔でも楽しめることが魅力。街に実装された技術やテクノロジーが顧客にもたらす体験を効果的に表現できる」と力説した。
今回の仮想都市は実在の都市の再現ではなく、架空の未来都市をゼロから作り上げた。参加者が「現在の課題を未来の技術やアイデアで解決したらこうなるかもしれない」と想像できるよう工夫を凝らした。定期的に開かれたミーティングでは、参画企業の間で具体的な意見やアイデアを出し合いながら街の設定について考えたという。
空間づくりで知恵を絞る
技術的には、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した分散型インターネット「Web3」を実現するKDDIのプラットフォーム「αU(アルファユー)」上に仮想都市を実装したことが特徴だ。同社は実在都市と連動した「バーチャル渋谷」や「バーチャル大阪」といった仮想空間の創造プロジェクトに参画してきた実績があり、そこで培った経験がバーチャル未来の都市にも生かされている。
松村氏は「参加者が実際に街を歩いている感覚を味わえるような仮想空間を作るため、多くの細かい調整が必要だった」と振り返る。さらに、高精細なコンテンツで構成される空間に多数のアバターが同時に入ると全体の動作が鈍くなるという課題にも直面。松村氏は「参加者が負荷を感じることなく楽しめるようにする空間づくりでは、これまでの経験が役立った」とも明かした。
仮想都市を体験できる期間は10月13日まで。東京都中央区のショールーム「GINZA 456 Created by KDDI」で体験することも可能だ。山田氏は「バーチャル未来の都市を体験した上で、『万博会場でも体験してみたい』と思って足を運んでくれたらうれしい。逆に会場を訪れた人がバーチャル未来の都市を通じて、違った角度から未来の都市を体験してほしい」と話している。