2020.10.02 システム障害で取引停止の東証デジタル化に冷や水

記者会見に臨む平井デジタル改革担当相=2日、東京都千代田区

 日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所で1日にシステム障害が発生し、全銘柄の株式売買が終日停止した。

 東証は2日午前に株式売買を再開し、世界有数の証券取引所が止まる異例の事態はひとまず正常化したが、日本社会のデジタル化推進を掲げる菅義偉政権に冷や水を浴びせた。

 デジタル化に伴うリスクと向き合うことの重要性を再認識する契機となりそうだ。

 「多くの市場参加者、投資家の皆さまに多大なご迷惑をおかけすることになり、誠に申し訳ございません」。売買の全面停止を受けて東証の宮原幸一郎社長らは1日夕の記者会見で陳謝し、再発防止に全力を尽くす考えを強調した。

 事態から一夜明けた2日には、平井卓也デジタル改革担当相が会見で「株式取引という重要な経済活動の機会を損失したことは誠に遺憾だ」と述べた。

 事態の引き金となった株式売買システム「アローヘッド」は富士通が開発し、10年1月に稼働。世界トップ水準の処理速度を誇るとされるシステムで、注文件数の急増に応じて能力を増強した。現システムは19年11月に全面刷新したばかりで、1年足らずで障害が起きたことになる。

 東証によると、銘柄情報や売買監視に必要なパスワードなどを格納する「共有ディスク装置」が二つある。

 1号機でメモリー故障が発生。故障に備えて2号機を用意しているが、その予備機に自動的に切り替わらなかった結果、相場情報の配信業務や売買監視業務に異常が発生した。サイバー攻撃が原因ではないという。

 富士通は「当社が納入したハードウエアに障害が生じ、多くの関係者の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしたことを、おわび申し上げます」とコメント。再発防止に向けて現在、東証と連携して詳しい原因の究明を急いでいる。

 情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター産業プラットフォーム部コネクテッドインダストリーズグループの山下博之グループリーダーは「一般論」と前置きした上で「システムに異常が発生した場合にどういうルートで連絡し対処しなければいけないかという手順を確かめる訓練が、緊急時への備えとして重要だ」と力説。

 事態に関しては、原因究明の結果を踏まえて「これまでの対策が十分だったかどうかについて検証することが求められる」とした。

デジタル化の意義

 菅政権はデジタル技術で既存の仕組みを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)」の推進を打ち出し「デジタル庁」新設を目指すが、経済活動を支える情報インフラのぜい弱さが鮮明となった。

 とはいえ、産業界の国際競争力にも直結するデジタル技術を進化させる意義は大きい。平井担当相は「世界の中で日本が取り残されないためにも、国民の利便性向上のためにも(デジタル化は)極めて重要。ひるむことはない」と前を向く。

 平井担当相は、堅ろう性が高いシステムであっても「100%はない」とも指摘。さらに「デジタル化には『光と影』があり、圧倒的に光の部分が大きいため、全世界的に進んでいる」とした上で、「影の部分に目をつぶるわけにはいかない」と力を込めた。

 「大手ベンダーやスタートアップ、新興企業などが持つ技術やアイデアを社会全体のデジタル化でどう生かしていくかもデジタル庁の大きなテーマの一つ」と平井担当相。

 セキュリティ対策を含めた守りのコストを「次の社会への投資」と位置付けてDXを進められるよう、環境づくりを進めていく考えも示した。