2020.12.09 再エネ電気をコミュニティ50世帯で融通新電力のループ、給湯器制御や行動変容が鍵

ループの「エネプラザ」のイメージ図

 新電力のLooop(ループ、東京都台東区)は、コミュニティ内で再生可能エネルギーの電気を蓄電池などと組み合わせることで融通し合いながら活用できる、エネルギーマネジメントのサービス「エネプラザ」の構想を進めている。既に環境省の補助事業として、さいたま市と協力し同市内でモデル地区の開発に着手しており、来年度中に完成させ、運用を始める。

 エネプラザは、コミュニティの各住宅が屋根上の太陽光パネルで発電した電力を蓄電池や、蓄電池を搭載した電気自動車(EV)などと連係しながらシェアしていくことができるサービスだ。

 電力を融通し合うことで、エネルギーコストも最小化できる。コミュニティ内全体の電力需給のエネルギーマネジメントをループが担う。

 ループは、そのモデル地区を建設するため、さいたま市と協力。同市が15年度から進める市内のスマートシティ化を推進する事業「スマートシティさいたまモデル」に参画した。

 同市緑区の美園地区がエネプラザのコミュニティのモデルとなる。計画では、街区「浦和美園E―フォレスト」で、約50戸の戸建て住宅を建設。太陽光発電設備を備え、街区内には配電網が張り巡らす。コミュニティ内には蓄電池や複数台のEVを設置して、住民に限り使用できる。同市未来都市推進部は「通常は、低炭素型の住宅でありながら、災害時には強靭(きょうじん)性を持つという両面が成り立つことを目指し整備を進める」と話す。

 住宅では、ループ独自の制御法で、太陽光発電を最大限に活用するように給湯器をコントロールするなどし、太陽光の自家消費率を最大化させる。また、EVは休日に、住民らがシェアして使用できる一方で、平日は太陽光の発電時は余剰分を蓄電し、発電しない時間帯には、コミュニティに放電する。

 コミュニティ内では、自立運転できるマイクログリッドを形成。発電設備や蓄電池、EVが相互に接続し、系統とは独自に制御が可能だ。また系統と連係しても、切り離した状態のどちらでも機能できるため、災害などで系統が停電した場合も、自立して電力の供給が継続できる。

 21年10月から住宅への入居開始を予定。ファミリー層が入る想定で、計200人程度のコミュニティになる見込みだ。こうした規模での電力融通を具体化するケースは珍しいという。

 ループは新電力として電力小売り事業で蓄積された家庭の使用電力の需給推移などのデータを豊富に持つ。このデータを活用し、コミュニティに最適な送配電設備の設計をしたり、実証面で役立てたりしてきたという。

 同社は、太陽光発電設備や蓄電池、EVシェアリング、配電網といった設備と、全体のエネルギーマネジメントをパッケージにしたサービスを「エネプラザ」として、地域に提供するビジネスを進める考え。同社デジタルマーケティング部は「2―3年後には、美園地区とは別の地域1カ所に導入させるのが目標。将来的には、全国に普及させていきたい」と話している。

需要側の柔軟性創出

 Looop(ループ)は9日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた「再生可能エネルギー世界展示会&フォーラム」で講演会を開き、スマートシティ計画を担当する電力事業本部事業開発課の荒井綾希子氏が、さいたま市美園地区での計画の具体像や狙いについて明らかにした。

講演会に集まった聴衆らは聴き入っていた
飛沫防止用のシート越しに説明する荒井綾希子さん

 同地区では、同社が自社で、コミュニティ内に送配電網を地中化して整備し所有。余剰電力を電力会社の系統に戻す「逆潮流」も行わないため、系統に負担を与えず、再エネを導入する。「ループはここで、エリアの配電事業に向けた第一歩に踏み出す」(荒井氏)と位置付けた。

 新築した戸建て住宅約50戸全体で再エネ電気の融通をするため、全ての住宅にあらかじめ設置した給湯器が大きな役割を果たす。需要サイドの柔軟性を生み出す仕掛けだ。

 荒井氏は「これまでは発電を調整することで需給バランスを整えるのが主だった。今後は需要側の調整によって、フレキシビリティを創出ことにも注目すべきだ」と指摘した。

 同社が、発電や需要の予測で、発電余剰分を推定。予測をもとに策定された計画はクラウド上でリアルタイムに改定しつつ、各給湯器に指令を出す。

 自家消費を最大化させるように、お湯を沸かす時間帯を各世帯で変えてタイミングをずらすことで、電力消費をコントロールする。不足分は、市場で最も安い単価で買い取って賄う。電力小売り事業を手掛ける同社では、既にさいたま市の戸建て約2500世帯以上の電力データを活用しながら、シミュレーションしてきたという。

 また、住民の行動自体も重要だ。各世帯に設置する表示画面を通じて、時間帯ごとに料金単価が変わることなどを知らせることで、住民らに電力使用をさらに増やしたり、抑制したりする行動変容を促しながら、需給のバランスを制御。自家消費率を向上させる狙いだ。

展示会には、ループも出展し、スマートシティ計画などのパネル展示を行った

 荒井氏は、美園地区のモデルは「コミュニティ全体で自家消費するイメージで、コミュニティ全体で独立でき、レジリエンスを担保できる」と話した。さらに、全国各地に同地区と同様のコミュニティを広げ、将来的にコミュニティ同士でもエネルギーを融通し合うことを目指すことで、「さらなる3E+S(環境性、安定性、経済性、安全性)を担保した社会の実現ができる」と語った。