2021.02.04 【二次電池特集】 全固体電池界面不純物制御で容量2倍に 東京工大、東北大、産総研、日本工大が成功

[図1]LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄全固体電池の充放電測定の結果。清浄な界面を有する場合の(a)サイクリックボルタンメトリーと(b)電池容量。50回目まで、安定した充放電動作を確認した。(c) 界面に不純物が存在する場合のサイクリックボルタンメトリー(用語3)。充放電動作は全く確認されなかった

 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の一杉太郎教授、東北大学の河底秀幸助教らは、産業技術総合研究所の白澤徹郎主任研究員、および日本工業大学の白木將教授らと共同で、電極と固体電解質が形成する界面における不純物制御により、全固体電池の容量を倍増させることに成功した。

 全固体電池の開発目標として電池容量の増加と高出力化が挙げられる。電池容量の増加は、機器の使用可能時間の延長につながり、高出力化は、短時間での充電や瞬間的な大きなパワーの取り出しを可能とする。

 現在、リチウムイオン電池に搭載されている通常の電極材料よりも高い電圧を発生する電極材料LiNi0.5Mn1.5O₄が注目されている。この材料を用いた全固体電池ではLiNi₀.₅Mn₁.₅O₄を放電状態、Li“₀”Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を充電状態としていた。しかし、不純物を含まない清浄な電極/電解質界面を作製すると、リチウムの含有量が2倍であるLi“₂”Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を放電状態、Li“₀”Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を充電状態として使えることがわかった。つまり、2倍の容量が実現したことを意味する。さらに、界面形成時にリチウムイオンが自発的に移動し、界面近傍にLi₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄が不均一に存在することを、放射光X線回折測定により明らかにした。

 この研究は、高容量型全固体電池の実現に向けて重要な一歩となるだけでなく、電極と固体電解質の界面におけるイオン輸送の学理構築にもつながる。

研究の背景

 固体電解質を用いる全固体電池は、高い安全性、高エネルギー密度(用語1)や高速充放電特性を兼ね備えた次世代の電池であり、電気自動車や電子デバイスの次世代電源として期待されている。現在、広く利用されている4V程度の発生電圧を有するLiCoO₂系の電極材料に加え、より高い電圧(5V程度)を発生する電極材料LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄を用いた高出力型全固体電池に注目が集まっており、活発な研究が展開されている。

 LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄を用いた全固体電池では、放電状態として「LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄」ではなく、「Li“₂”Ni₀.₅5Mn₁.₅O₄」を用いると、電池容量が倍増することが予測できる。しかし、これまで、Li₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を放電状態とした安定した全固体電池の充放電動作に関する報告はなかった。

研究成果

 研究グループでは超高真空プロセスを用いた薄膜作製技術を活用し、不純物を含まない清浄な電極/電解質界面を有する全固体電池を作製した。具体的にはエピタキシャル成長(用語2)をしたLiNi₀.₅Mn₁.₅O₄薄膜を形成し、その上にLi₃PO₄固体電解質を成膜し、最後に負極としてLiを蒸着した。その結果、Li₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を放電状態、Li“₀”Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を充電状態として、50回もの安定した充放電動作に成功した(図1a)。

 この電池は4.7Vと2.8Vで動作し、その容量は従来のLiNi₀.₅Mn₁.₅O₄電極材料を用いた電池の2倍の容量な電極/電解質界面であるため界面抵抗が小さく、高出力が実現する。対照実験として、電極/電解質界面に不純物を混入させると、充放電動作は全く観測できなかった(図1c)。これらの結果は不純物を含まない清浄な界面の実現が、電池の高容量化に極めて重要であることを意味している。

 さらに、この電池容量が増大するメカニズムを詳しく調べた。LiNi₀.₅Mn₁1.₅O₄エピタキシャル薄膜の作製後、その上に固体電解質Li₃PO₄を堆積させると、リチウムイオンが自発的にL₃PO₄からLiNi₀.₅Mn₁.₅O₄に移動することがわかった。また、放射光X線回折測定により結晶構造を調べたところ、LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄エピタキシャル薄膜の界面近傍でLi₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄が不均一に形成されることを明らかにした(図2a)。

 そして、固体電解質の上にリチウム電極を堆積させて電池を作製すると、リチウムイオンの自発的移動がさらに促進され、LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄エピタキシャル薄膜はLi₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄エピタキシャル薄膜へと完全に変化することがわかった(図2b)。これは不純物を含まない清浄な界面の形成により、リチウムイオンがスムーズに固体電解質側からLiNi₀.₅Mn₁.₅O₄側に移動したと考えられる。

[図2]LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄全固体電池における界面形成過程と充放電動作の概略図。(a)界面形成直後の様子。LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄エピタキシャル薄膜の作製後、その上に固体電解質Li ₃PO₄を堆積した状態。リチウムイオンの自発的移動により、界面近傍でLi₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄が不均一に生成する。MgOはLi₃PO₄の劣化を防ぐ保護層である。(b)–(d) 充放電動作中の薄膜構造。(b)はリチウム電極を蒸着した電池作製の直後の様子。リチウムイオンの自発的移動が促進され、LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄エピタキシャル薄膜はLi ₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄エピタキシャル薄膜へと完全に変化 (放電状態)。(c)は充放電動作中の電池の状態、(d)は充電状態を示す。なお図中のL ₀NMO、LNMO、L₂NMOは、それぞれLi₀Ni₀.₅Mn₁.₅O₄、LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄、Li₂Ni₀.₅Mn₁.₅O₄を示す

今後の展開

 今回、LiNi₀.₅Mn₁.₅O₄全固体電池における電池容量の倍増が実現したことにより、清浄な電極/電解質界面の新たな役割が浮き彫りとなった。これまで清浄な界面により実現してきた低界面抵抗や高速充放電に加え、電池容量の倍増は全固体電池の応用範囲の拡大につながり、実用化を目指す上で、大きな一歩となると考えられる。

【用語説明】

(1)エネルギー密度:電池から取り出すことのできるエネルギー量の値。単位体積や単位質量などで規格化される。

(2)エピタキシャル成長:基板界面の結晶面と揃った結晶を成長させる方法。この結果得られた薄膜は、基板結晶と方位が揃っており、良好な界面が得られる。

(3)サイクリックボルタンメトリー:電池電圧を変化させ、発生電流を測定する手法。Li量変化を伴う充放電動作が起きると、特定の電圧で、発生電流がピーク形状を示す。

 <資料提供:産業技術総合研究所>