2021.05.20 【この一冊】「宇宙の奇跡を科学する」本間希樹 扶桑社新書

 人類史上で初めて、ブラックホール撮影に成功した国際研究チーム。その中心メンバーが、国立天文台教授の本間希樹さん。近刊「宇宙の奇跡を科学する」(扶桑社新書)では、本間さんならではの語り口で、宇宙研究の歴史や最新動向、ブラックホール研究などについて、分かりやすく伝えている。

 水沢VLBI観測所(岩手県奥州市)の所長として活躍するかたわら、一般向けの解説書にも力を入れている本間さん。平易な口調ながら、どこか哲学者めいた内容と思えるのは、やはり、宇宙の創生などの研究と、「私たちはどこから来て、どう生きるか」といった哲学的な問いとが、重なりあっているからだろうか。

 同書で強調されるのは、さまざまな偶然が積み重なった上に、宇宙、太陽系、地球、また私たちのような生命があるということ。超新星爆発で重元素が宇宙に飛び散り、それが私たちの生命の源になっているという。まさに、私たちの体は星のかけらでできているわけだ。

 また、太陽系が、天の川銀河の中で「ほどほどの片田舎」にあることの利点を説明される。あまりに中心部にあると、ほかの星とのニアミスや、放射線にさらされるといったリスクが高くなる。一方で、あまりに辺境にあると、生命の材料になる重元素も少なくなり、生命誕生の可能性が低くなる。

 さらに、相対性理論など多くの先人の歩みをたどりつつ、宇宙研究の歩みを紹介している。ダークエネルギー、ダークマター、はやぶさ2、系外惑星の発見などを広く解説。むろん、ブラックホール撮影の舞台裏もたっぷりと語っている。

 本間さんには「ブラックホールってすごいやつ」(扶桑社)の著書などもある。同書は、観測所の地元・岩手出身の漫画家、吉田戦車さんの独特の漫画と併せて、宇宙の謎を分かりやすく、楽しく解説している。

 天体から届く電波を観測する「電波望遠鏡」など、天文学とエレクトロニクスは深い関係にある。評者は1年余り前、子どもから大人までを対象にした宇宙講演会で、本間さんの話を伺う機会を得た。決して偉ぶらず、同じ目線で答えてくださる姿勢が印象的だった。

 本間さんからは今回、電波新聞読者へのメッセージも特別に頂いた。

 「電波天文学は、放送・通信などで培われてきた様々な技術に支えられて成り立っています。これらの技術に関わりの深い電波新聞の読者の皆さまにも、電波天文学や宇宙の研究の面白さを味わっていただければ大変うれしく思います」。

 扶桑社。新書判256ページ。946円(税込み)。