2021.07.23 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<51>ドイツに見るデジタル化と5G化のヒント③
前回、ドイツが「インダストリー4.0」の旗印の下、デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)を強力に推進しているエンジンとなっているものは何か-という観点から、ドイツ人特有の合理的な思考について見てきた。
その中で、組織力を強化するためには、個々の生まれ持った能力ではなく、統一したルールを教えるマニュアルによる徹底した訓練の重要性を説いた、19世紀プロイセンの軍人メッケルを例に挙げた。そのメッケルを日本に推薦したのが、戦略論で名高いモルトケ参謀総長だ。
彼は人材を「意欲」と「能力」の二つの観点から四つの類型に分類し、組織における望ましい人材は「能力は高いが、意欲の低い人」と位置付けた。意外にも「能力は高い、かつ意欲も高い人」は「能力は低い、かつ意欲も低い人」よりも下になっているのが興味深い。
その理由は、能力が高く意欲も高い人は、自ら課題を見つけ解決する行動を取るため、上司の指揮命令が有効に機能しないからだという。これが組織づくりや人事の際の考え方として使われる「モルトケの法則」だ。モルトケは組織から独立した「本部」の必要性を主張し、本部が各組織の運用を掌握して指揮命令を機能させるとした。
もちろんこのやり方には賛否両論あるだろうが、紙の伝票を全て廃止し、組織によって異なるデータフォーマットやデータベースを統一し、その上で既存のシステムを一新するためには組織の努力だけでは限界があるのも事実だ。
統一基盤が必要
これらを解決するためには、デジタル化するために必要な情報やサービスが各組織から独立して利用できる統一基盤(プラットフォーム)のような仕組みが必要ではないだろうか。
その良い見本が前回紹介した「プラットフォーム インダストリー4.0」といえる。このプラットフォームでは、デジタル化(センサー=IoT、データベース、5G、データ解析=AIなど)やビジネスモデル、人材育成のための教育訓練などに関する出版物や研究の成果物を、誰でもダウンロードできる仕組みになっている。
JETRO(日本貿易振興機構)のビジネス短信によると、プラットフォーム インダストリー4.0は、昨年発表したポジションペーパーの中で、新型コロナウイルスの世界的な流行を受けてインダストリー4.0の流れはさらに加速すると述べている。
今までデジタル化に消極的だった中小企業も、生産プロセスのさらなる柔軟化、バリューチェーン・部品調達の最適化への対応を求められ、デジタル化が決定的な要素となる-としている。
デジタル化が急務
コロナ禍で世界の情勢が一変した今となっては、デジタル化が急務になっていることは間違いない。デジタル化を進めるためには、組織によって異なるデータ処理を標準化するマニュアルや訓練が有効なことも実証されつつあり、それを担うのは組織から独立したプラットフォームになる、という流れが見えてきた。ドイツ人の合理的思考に感心する。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉