2021.08.05 【新技術】自動運転車の制御回路の保護

 自動運転技術に注目している人は、たいていそのメリットをよく知っている。しかし自動運転車の安全性と便利さは、自動車エレクトロニクスが、落雷サージ(車載充電器のAC入力に限られるが)や車内の電力サージ、静電気放電(ESD)といった電気的衝撃に対し、信頼性が高くかつ堅ろうであって初めて実現するもの。適合承認が遅れたり、回路性能を妥協せざるを得なくなったりするような、最終段階での設計変更を回避するためには、設計段階の早期から保護回路を取り入れなければならない。

代表的な車載カメラのサブシステム

 まず、カメラサブシステムの場合について考えてみよう。各種装置と複数台のカメラが互いに深度情報を捉え、CCDやCMOSイメージセンサーを通して可視光を電子信号に変換し、通信制御回路に送信する。カメラのサブシステムにおける回路ブロックのうち、外部回路と接続するものには保護部品が必要。その代表的な回路ブロックが、CANトランシーバー、電源、Ethernetトランシーバーだ。

 カメラの電源サブシステムは、過電流や高エネルギーの過渡現象、そしてESDから保護しなければならない。ヒューズは、過電流を保護する。溶断するごとに交換しなければならない従来型のセラミックヒューズ、あるいはポリマーをベースとした正の温度特性を持つPPTC復帰型ヒューズの中から選択できる。どちらも自動車のニーズに合った広い温度定格を持つ。

 セラミックヒューズの使用温度定格はマイナス55~プラス150度、PPTC復帰型ヒューズは最大プラス125度まで。PPTCには、過電流で作動した後も交換が要らないという利点がある。過電流によって熱が発生すると、PPTCはこれに反応して著しく抵抗を増大させ、過電流が収まると低抵抗に戻る。どちらのタイプにも、基板スペースを節約できる表面実装パッケージがある。

 過電流のほか、車載の電源回路にはモーターのオン/オフなどの発生源に起因する高エネルギーの過渡現象に対する保護が必要となる。電子回路は、ISO7637とISO16750規格で規定された過渡現象に耐えられなければならない。これらの規格に準拠する部品として、上記の規格が説明しているPulse1、Pulse2、Pulse3、Pulse5で規定されているように、低エネルギーの過渡現象と高エネルギーの過渡現象のいずれも安全に吸収できる過渡電圧サプレッサー(TVS)ダイオードがある。

 過渡エネルギーの保護には、金属酸化物バリスター(MOV)も検討できる。MOVのサージ吸収性能は、20マイクロ秒のパルスを8発の500Aのサージ電流と、1,000マイクロ秒のパルス10発の最大2.5Jのエネルギーの耐量があり、EMC(電磁干渉適合性)規格IEC61000-4-2に適合する。また、MOVの使用温度範囲はマイナス40~プラス125度で、自動車環境で安全に使用できる。

 電源に逆極性の電圧が偶発的にかかった場合の破壊的な故障を避けるため、ヒューズと直列にショットキーダイオードを挿入する設計にできる。このダイオードは逆極性の保護に加え、順方向の電圧降下が低いため、電源の性能低下を最小限に抑えられる。

CANバストランシーバーのESD保護のための推奨レイアウト

 コントローラーエリアネットワークCANプロトコルのトランシーバーには、ESDや高速で過渡的な電気パルスなどの過電圧過渡現象から保護しなければならない。ダイオードアレイには、性能を低下させずにCANラインを保護することに特化して設計されたものがある。ダイオードアレイはESD耐性が高く、気中放電で30kV、接触放電で30kVという性能を持つモデルもある。

 これらのデバイスを使えば、自動車走行におけるESD関連規格であるISO10605を満たすことができる。ダイオードアレイは、高いESD電圧に耐えるだけでなく、IEC規格61000-4-4(電気的高速過渡現象)に規定される最大50Aの過渡電流を吸収することができる。さらに、静電容量約15pF、リーク電流1μA以下のダイオードアレイなら、プロトコル転送と干渉しない。

 これらデバイスも使用温度範囲がマイナス40~プラス150度であり、自動車環境への耐性がある。CANトランシーバーの保護回路には、一般にCAN-HとCAN-Lの両ラインに設けた2チャンネルのダイオードアレイを置く。両方のアレイを収めた単一の保護部品もあり、生産ラインにおける部品のピック&プレイス作業のコストを削減する。

Ethernetトランシーバーに推奨されるESD保護

 EthernetトランシーバーにもCANトランシーバー同様、ESD保護と過渡サージ保護が必要。ダイオードアレイとポリマーESDサプレッサーを使って、高速の差動データ回線に必要な保護をする。これらダイオードアレイ製品には、最大プラスマイナス30kVのESD保護ができ、最大50Aの電気的高速過渡電流を吸収できるものがある。

 ダイオードアレイは、単一パッケージで1組の差動データ回線を保護できるため、スペースの節約になる。ディスクリート部品として、0402と0603の表面実装パッケージに収容されたバージョンもあり、キャパシタンスと基板スペースを共に小さくできる。

 これらESD保護デバイスを使えば、信号の歪みがカットされ、電圧のオーバーシュートも減り、回路設計を簡素化できる。静電容量は、ダイオードアレイで0.35pFまで、また、ポリマーESDサプレッサーでは0.04pFまで下げることができる。これらパラメーターだと、ESD保護が1ギガbpsのEthernet送信レートを確実に妨害しない。

 最も重要な回路ブロックは、イメージセンサーの回路。ESD保護ダイオードの双方向セット1組でイメージセンサーとその回路を保護できる。この双方向の保護ダイオードはカソードとカソードが向き合っている。このTVSダイオード製品は、最大プラスマイナス30kVのESD衝撃に耐え、代表値10nAという極めて低いリーク電流。その静電容量は約0.35pF。これらTVSダイオードアレイは、1.0×0.5ミリメートルと極めて小さいSPD882パッケージに収容されているため、基板スペースを最小に抑えることができる。保護部品をできるだけ入力回路に近づけることで、外部エネルギーによる重要部品の損傷を防ぐ。

自動運転車用レーダーサブシステムの代表的なブロック図

 レーダーサブシステムは、前方と側方の歩行者を検知し衝突を回避するための情報が得られる。この回路は、一般に2電源で動作する。一つは、アナログレーダー送信機と受信機の回路ブロックに供給する低ノイズ電源で、もう一つはロジック回路と通信回路に供給する従来型DC電源。カメラサブシステムの電源と同様、レーダーサブシステムの電源にも過電流保護、過渡サージ保護、逆極性保護とESD保護が必要になる。

 両電源における過電流と逆極性の保護は、保護部品一式で対処する。ここでも従来型の表面実装ヒューズかPPTC復帰型ヒューズかを選択する。順方向電圧の低いショットキーダイオードは、両電源とも入力ラインと直列に接続することで、両電源とレーダーサブシステム回路ブロックを共に逆極性から保護する。各電源とも、入力部でサージから保護するのが有効。

 TVSダイオードは、サージ保護部品として推奨する。1ミリ秒に600Qという大電力の過渡エネルギーを吸収でき、最大100Aの過渡電流も吸収できる。設計時はTVSダイオードの過渡エネルギー定格に基づいて選択する(低エネルギーの過渡現象では400/600W、高エネルギーの過渡現象では1500W/7000W)。

 波形発生器とアナログフロントエンド回路は、それぞれレーダー送信機とレーダー受信機の一部で、二つの回路とも、送信機ブロックと受信機ブロックから離している。送信機出力ブロックと受信機入力ブロックに保護部品があると、それぞれ送受信のインピーダンスが変わってしまうため。

 保護部品はできるだけ多くの範囲の回路を保護する。ESD保護には双方向のダイオードアレイを推奨する。カメラのサブシステムでイメージセンサーを保護するダイオードアレイと同様の部品を使い、ESDから守る。高い感度を持つアナログフロントエンドには、回路の微小信号のインテグリティーに影響を及ぼさないようなESD保護が必要。双方向のポリマーESDサプレッサーを検討しよう。ESDサプレッサーは、静電容量が0.1pF未満で漏れ電流1nA以下しかないので、回路の利得と帯域幅への影響が少ない。

 カメラサブシステムと同様に、レーダーサブシステムも車両のCPUサブシステムに情報を送る。双方向ダイオードアレイは、CAN-HとCAN-LL両方のI/OラインにESD保護対策をする。イーサネットトランシーバーには、ダイオードアレイかポリマーESDサプレッサーのいずれかを使って信号の歪みを抑え、Ethernet転送レートへの影響を抑える。

 レーダーシステムは、自動運転車両の安全かつ正常な運転には欠かせない。それは、カメラシステムと同様、道路を監視する二つの目。その回路ブロックを外部環境から保護することが不可欠になる。

先進運転支援システム(ADAS)の保護

 信号処理、通信、制御サブシステムが車の頭脳として機能する。これら主要サブシステムは堅ろうで、信頼性が高く、フェールセーフの設計でなければならない。その回路は、ほかの交通車両に迅速に反応し、動物や人によって進行方向が遮られた場合は即座に停止しなければならない。また、センサーが故障するとフェールセーフ設計で応答しなければならない。コントローラーに情報を提供する全ての回路ブロックをESDから守る必要がある。

ADASの通信と制御サブシステム

 ADASの電源も、ほかの電源ブロック同様、過電流保護、サージ保護、逆極性の保護が必要。ADAS電源用のヒューズは、モジュール内に収めるか、さらに上流にある車両の低電圧のジャンクションボックス内に収めることができる。サージ電力の定格を考慮して選ばれるTVSダイオードは、サージ過渡現象に対して保護する。電源入力ラインと直列に配置したショットキーダイオードは、逆極性の電圧から保護する。

 各通信リンクには、各ポートの性能や構成に合わせたESDと過渡現象からの保護が必要。回路設計者は、広範なダイオードアレイやポリマーESDサプレッサーを選択し、データレートや、高レベルと低レベルとの電圧差に影響を及ぼさずに各通信リンクを保護する。

 DSP回路ブロックと直接接続するどのような信号ラインでも、ESDと過渡現象から守る必要がある。設計者は、ダイオードアレイかポリマーESDサプレッサーを使うことで、Hi-Low信号ラインを双方向で保護することができる。

 ADAS通信制御サブシステムは、自動運転車の頭脳に当たり、いつでも正常な運転状態にしておくことが重要。ADASの全ての入出力端子におけるESD保護は、有害なESD発生からサブシステムを保護し、TVSダイオードは電気デバイスや機電デバイスで発生するサージ過渡現象から守る。

自動車エレクトロニクスの電気的保護に適用される三つの重要規格

 車両電子システムが準拠しなければならないISO規格を認識していることは設計の基本。最も重要なものが、伝導性電気的過渡現象から保護するために必要な事項を規定したISO規格7637-2、自動車の電気電子システムが耐えなければならない環境ストレスを規定したISO規格16750-2、自動車エレクトロニクスが耐えなければならないESD条件を規定したISO規格10605:2008の三つ。これら規格を熟知していれば、コストと時間を浪費する再設計を避けられる。

 自動車業界は、自動車電子回路に使える部品を評価するための品質認定システムを規定している。一連の機械的ストレスや電気的ストレス、環境ストレスが規定された試験(広い温度範囲での使用など)に合格した部品は、AEC-Q(自動車エレクトロニクス評議会の認定品質)適合である旨を明示できる。AEC-Q100、AEC-Q101、AEC-Q200など、Qに続く数字にはいくつかある。この品質認定システムは、実施すべき試験を規定する。AEC-Q品質に適合した部品を用いると、自動車の電子回路への承認プロセスが迅速になる。

 自動車グレードの部品であるという認証を得るには、メーカーはその部品が一連の規定の試験に合格することを実証するだけでは不十分。品質要求を継続的に満たす部品を規定の生産速度で製造できることを示す生産部品承認プロセス(PPAP)文書も備えなければならない。さらに製造工場も、国際自動車タスクフォース(IATF)、すなわちISO9001に基づく自動車品質システムの認証を受けなければならない。

 詰まるところ、堅ろう、かつ信頼性の高い車両電子システムは自動運転車両が路上走行の実現を後押しすることになる。過電流保護、過渡サージ保護、ESD保護、逆極性の保護を備えることで、回路故障のリスクを大幅に減少させることができる。

 〈資料提供:リテルヒューズ〉