2022.07.15 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<94>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤⑥

 「リテラシー(Literacy)」の本来の意味は読み書きする能力のことで、識字力のことを指す。しかし、識字率が99%を超える日本では、文字通りの意味で使われることは少なく「物事を適切に理解・解釈し、それを活用する力」といった意味合いで使われる。「コンピューターリテラシー」や「ネットリテラシー」など、IT(情報技術)を利用し、使いこなす能力のことを指して使うことも多い。

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の公式サイトでもリテラシーは、「読み書き、計算能力としての従来の概念を超えている」と述べている。ますますデジタル化が進む今の世界は、情報が豊富でかつ急速に変化しており、リテラシーはまさしく、識別、理解、解釈、コミュニケーションする力になってきている。

 例えば、情報処理推進機構(IPA)では、「ITリテラシー標準」を「社会におけるIT分野での事象や情報などを正しく理解し、関係者とコミュニケートして、業務などを効率的・効果的に利用・推進できるための知識、技能、活用力」と定義している。

 要するにパソコンの設定やアプリケーションの操作、Wi-Fi網やインターネットとの接続、クラウドの業務アプリやメール、オンライン会議の操作、セキュリティー管理などのITスキルが求められているということだ。

5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤

DXリテラシー

 そして最近、経済産業省が新たに打ち出してきたのが「DXリテラシー標準」になる。これは、「働き手一人一人がデジタルトランスフォーメーション(DX)に参画し、その成果を仕事や生活で役立てる上で必要となるマインド・スタンス(考え方の姿勢)や知識・スキルを示す学びの指針」としているものだ。しかしこれだけでは、僧侶が唱えるありがたい経文のように聞こえるだけで、DXリテラシーとは何なのかよく分からない。

 そこでDXの定義に立ち戻って考えてみよう。DXは「企業が、顧客や社会のニーズを基に、ビッグデータやデジタル技術を活用してビジネスを変革し、競争上の優位性を確立すること」だ。

 本シリーズでは、VUCA時代の少子高齢化に対応していくために、ローカル5Gを活用した現場主導(ボトムアップ型)の変革が必要であることを繰り返し説明してきた。現場のビジネス変革にはIoTや人工知能(AI)、ロボットを活用した〝キラーサービス〟を生み出すことが不可欠で、基盤にはローカル5Gが必要になることも説いてきている。

変革を阻む障壁

 ところが、企業組織には「変革を阻むサイレントキラー」がいくつか存在することを前回述べた。中でも現場主導のDX推進を阻むのが「トップダウン的な推進スタイル」という障壁だ。

 一般的にITは、トップダウンで導入されることが多い。システム構築やITリテラシー教育をSI(システム構築)企業やITベンダーへ丸投げするのは、その最たるものだろう。しかし、現場のDXはトップダウン的な推進だとうまくいかない。現場のビジネス変革を目的としているからだ。

 現場のビジネスをよく理解し、現場のビジネス課題を痛感しているビジネスユーザーが主体となって、ボトムアップでDXを推進しなければ、ビジネス変革はできない。そのためには障壁に「DXリテラシー教育」という〝くさび〟を打ち込む必要がある。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉