2022.11.07 Let’s スタートアップ!MODE IoT技術をパッケージソリューション化! 誰もが簡単にIoTをビジネス利用できる世界へ

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、誰でも簡単にIoT技術をビジネス活用できるよう、IoTのパッケージソリューションを提供しているMODE。

 MODEは2014年、米シリコンバレーで創業。2017年には東京オフィスが設立された。日本市場においては、工場や物流、建設現場の変革を進める「現場DX」の支援に注力している。創業者の上田学(うえだ・がく)氏は、米オフィスを上位に据える多くの米国スタートアップとは一線を画し、米国と東京のオフィスが同等かつ一体となった開発環境や組織づくりを進めているという。

 同社設立の経緯や狙い、目指す組織のあり方を、東京オフィスで広報を担当する江藤さんに聞いた。

プロフィール 江藤明巳(えとう・あけみ) MODE, Inc. パブリックリレーションズ
大学で国際経済を学んだ後、貿易会社や外資系会社で事務や秘書を経験。その後、スマートロック(入退室管理)システムを手掛けるスタートアップに入社した際にIoT技術の可能性を感じ、MODEに転職。現在、広報を担当する。

IoT技術を、あらゆる企業が使えるように

 さまざまなモノ(物)をインターネットにつなぐ「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」技術が、ビジネスシーンで注目を集めるようになって久しい。

 IoT技術により、パソコン(PC)やサーバーなどのIT機器だけでなく、家電や建物、工場設備、自動車など、従来インターネットに接続されていなかったモノがつながることで、これまで埋もれていたデータを収集・分析することが可能になる。例えば工場であれば、工場機器に取り付けられたセンサーから、機器の稼働状況などさまざまなデータをリアルタイムに収集・分析することで、省力化や生産性向上につなげることができる。

 ただIoT技術の導入は簡単なことではなく、実際に導入しようとすると、多くの障壁が現れる。例えば、目的に合うセンサーをどう選び、調達するのか、膨大なデータをクラウド上に集める仕組みはどう構築するのか、あるいは集めたデータはどう可視化するかなど、幅広い知見と技術が求められる。

 こうしたIoT導入に必要な知見や技術をパッケージソリューション化し、あらゆる企業で簡単に使えるよう支援しているのが、MODEだ。

 MODEでは、センサーをインターネットにつなげる部分から、膨大なデータをクラウド上に集め、プラットフォームにためる部分、そして、たまったデータをパソコンなどで“見える化”する部分まで、全てのプロセスを担うオール・イン・ワン・パッケージソリューションを提供している。

MODEのパッケージソリューションの全体イメージ(画像提供:MODE)

 さらに、工場などものづくり現場に特化したソリューション「Factory Cloud」や、ロボットに特化したソリューション「Robot Cloud」、自動車などモビリティーに特化したソリューション「Mobility Cloud」など、各分野に特化したソリューションも提供。最近では、複数現場のデータを収集し、比較しながら可視化できる「MODE BizStack」の提供も開始し、多様な業界の現場ニーズに応えている。

Googleで活躍する日本人エンジニアが創業

 IoT導入の支援サービスで急成長するMODEだが、どのような経緯で設立されたのだろう。江藤さんは、米シリコンバレーでエンジニアとして活動していた上田学氏が、「IoT技術に興味を持ったこと」が設立のきっかけになったと話す。

 当社CEOの上田学は、20年以上米国シリコンバレーに住んでいます。Googleの2人目の日本人エンジニアとしてGoogle Mapsの開発に携わったり、Twitterの開発チームを主導したりと、豊富な経験を持っています。

 2014年ごろ、上田は当時注目され始めていた「IoT技術」に出合いました。

 強い興味を抱いた上田は、自らIoT技術を取り入れたスプリンクラー(庭の散水装置)を開発します。しかし、実際に作ってみると、IoTのソフトウエアの開発がものすごく大変なことに気づいたそうです。

 そこで、IoTに携わるエンジニアの助けになるようなシステムを開発しようと、Yahoo!出身のエンジニアで友人のイーサン・カンと、2014年に米シリコンバレーで設立したのが、MODEです。

MODE設立の経緯を話す江藤さん

「現場DX」にIoT技術をどう活用するのか

 MODEのサービスは、日本市場においては工場や物流、建設現場の変革を進める「現場DX」で活用されるケースが多いという。その様子がイメージできるよう、具体的な事例を挙げてもらった。

 現在、MODEが提供しているのは、IoT技術をパッケージソリューション化し、誰でも簡単にビジネスで利用できるようにしたものです。

 分かりやすい事例としては、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)様やJR東日本スタートアップ株式会社様とJR浜松町駅で行った「夜間工事のデジタルツイン化」に向けた実証実験があります。

 鉄道の保守工事は、終電から始発までのわずかな時間に行わなくてはならず、安全性を確保しつつ、いかに作業を効率化するかが重要です。

 そこで安全性確保や作業効率化を目指すために、当社のIoTの仕組みを活用いただきました。

 具体的には、作業員に運動量を測定できるセンサーを取り付けた作業靴を履いていただき、その活動状況を計測。さらに、真っ暗闇な作業現場を照らす作業用ライトにGPSトラッカーを取り付け、位置情報を取得するなどしました。

 その結果、作業員の活動量を可視化するなど、IoT技術の有用性が確認できたほか、作業効率化や安全性向上に向けた示唆を得ることができたと聞いています。

 当社では、こうした現場DXを支援するケースが急増しており、2021年に入ってからは、建設業界などの大型案件を複数受注し、売り上げが大幅に増えています。

日米オフィス間のコミュニケーションが大きな課題に

 米シリコンバレーで創業したMODEは、2017年に東京都千代田区大手町に日本オフィスを開設した。日米2国にオフィスを設置し、より価値の高いソリューションを開発する狙いだったが、「オフィス間でのやりとりが大変だった」と江藤さんは話す。

 米国で創業した企業が日本に拠点を置く際には、カスタマーサービスなど限られた役割を担わせるケースが多いです。

 上田は、東京オフィスを「米オフィスの下に置く」のではなく、あくまでも対等な立場のチームにしたいという考えを持っており、ソリューション開発なども共同で行うことになりました。

 しかし、時差や距離、言語の違いなどがあるため、メンバー間のコミュニケーションは非常に苦労しました。

 まず物理的な距離を乗り越えるために、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)以前は、大型モニターを常時インターネット接続し、常にオンラインミーティングしているような状態で各オフィスをつなぎました。

 これにより、ちょっとした質問はモニター越しに行うなど、まるで同じオフィスにいるかのようなやりとりが可能になりました。

 また当社では、メンバーの多くがコミュニケーションを取りやすい言語であるため、英語を共通語に指定しています。

 これを実現するために、英語を母語とするメンバーは、そうでないメンバーと粘り強くコミュニケーションを取っています。

 一方、英語が母語でないメンバーも、よりスムーズなコミュニケーションを図れるよう、マネージャーと一緒に英語を勉強する計画を立てるなど、英語スキルを向上するための活動を積極的に進めています。

「日米オフィス間のコミュニケーションで大きな苦労があった」と話す江藤さん

米国流の「自由で自主性を重んじる」社風

 このほかにもMODEでは、チームワークの向上や社風を浸透させるため、複数の取り組みを進めているという。

 当社では、両オフィスのメンバーができるだけ仲良くすることが大事だと考えており、月に一度、両オフィスのメンバーが一緒になって、「TGIF(Thank God It’s Friday.「神様ありがとう、今日は金曜日!」という意味)」の飲み会を開催しています。

 ここで、会話やちょっとしたゲームなどを一緒に楽しむことで、チームワークを高めています。

 このほか、日米共通のカルチャーやルールが浸透するよう努めており、東京オフィスは日本の労働基準法を順守しながらも、米国スタッフと同じように、自由で自主性を重んじる環境で働くことができます。

 例えば、今はリモートワークを基本としており、各自のニーズに合わせて出社日を決めることができます。また、メンバーは皆、プロフェッショナルとして尊重されており「午前9時から午後6時まで働く」などの細かいルールは設けず、「働く時間は各自が決める」というスタンスを打ち出しています。

IoT技術の豊かな可能性に引かれ入社

 ここで、江藤さん自身がどのようなキャリアを経てMODEに入社したのかを聞いた。

 私は大学で国際経済などを学んだ後、貿易会社や大手外資で事務職や秘書をしていたのですが、2008年のリーマン・ショックで職を失いました。

 それでたどり着いたのが、黎明(れいめい)期だったスマートフォンを活用した新規事業を手掛ける会社で、ベンチャーならではのスピード感のある事業開発を体験しました。

 その後、スマートロック(入退室管理)システムを手掛けるスタートアップに転職した際に、IoT技術に触れ、これが世の中に広まると、世の中が大きく変わるだろうなと強い興味を抱きました。

 そんな矢先に、まだ今よりもずっと規模が小さかったMODEに出会い、バックオフィスや広報を担う10番目の社員として入社することを決めたのです。

 実際に入社して驚かされるのは、IoT技術の可能性の豊かさです。

 IoT技術で業務改善などを進めることで、人間が担う業務そのものが変わる。社会をドラマチックに変える力を秘めているところが、ものすごく面白いですね。

「IoT技術の可能性に引かれる」と江藤さん

真にワールドワイドかつボーダーレスな組織へ

 MODEではどのような未来像を描いているのだろう。

 上田は米国で20年以上、エンジニアをしてきた経験を持ちますが、決してMODEをシリコンバレーの会社にしたいわけではなく、ワールドワイドな会社にしたいという思いが強くあります。

 そのため私たちが目指すのは、真にワールドワイドでボーダーレスな組織づくり。国や言葉だけでなく、性別や人種も超えて、いろいろな人がお互いを尊重して働けるような会社になるというのが、私たちの目標です。

 また、ビジネス的な展望としては、米国、日本以外のグローバル展開も視野に、さらに事業を拡大していきたいと考えています。

 最後に、MODEが今一番必要なものを聞いた。

 私たちが必要としているのは、「ボーダーレスな環境で、IoTを用いて世の中にイノベーションを起こしたい人」です。

 特にソフトウエア・エンジニアの方で、ある程度経験を積んだ方を求めています。私たちと一緒に、ぜひ社会にイノベーションを起こしていきましょう。

(取材・写真:庄司健一)
社名
MODE, Inc.
URL
https://www.tinkermode.jp
CEO / Co-Founder
上田 学
所在地
サンフランシスコオフィス
1840 Gateway Dr. Suite 250 San Mateo CA 94404 USA
東京オフィス
東京都中央区日本橋富沢町9番4号 THE E.A.S.T.日本橋富沢町301
設立
2014年 7月
資本金
1,190万ドル(資本準備金を含む)
従業員数
30人
事業内容
センサープラットフォームおよび関連ソフトウエアサービスの提供