2023.01.12 【計測器総合特集】東陽テクニカ あらゆる電磁波の評価技術で自動車業界における脱炭素社会の実現に貢献
図1 キーサイト社の「PXE」(左)と東陽テクニカ製「EPX」
自動車業界では、脱炭素を目指す持続可能な社会の実現に向けて、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)技術の開発が加速している。EV(電気自動車)化、カメラやレーダーなどセンサーECU(電子制御ユニット)の搭載、外部システムとの無線通信を担うTCU(テレマティクス制御ユニット)の普及など、次世代モビリティーへの技術変化が新たな潮流となっている。このような技術変化を支える計測技術は、不要なノイズを抑え誤動作を防止するためのEMC(電磁環境両立性)、車両へ適用したICT(情報通信技術)や無線通信技術、複数のセンサーECUが連動したAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)機能の効果的な評価法など、ますます複雑化すると見込まれる。
次世代モビリティーの安全性を担保するEMC対策
自動車や車載電子機器は今後EVや自動運転の普及に伴って、さらに厳しい電磁環境にさらされることが予想される。それは、自動車の電動化により、モーターを介して車体内部に電磁ノイズを広げる可能性が高くなり、自動運転に必須の高速通信や高速制御を実現すると同時に電磁ノイズを発生しやすい環境を作り出してしまうからだ。
そのような状況でも自動車の安全を担保するには、EMC対策を万全にする必要があり、それには電子機器が発する不要な電磁ノイズ(エミッション)を正確に測定しなければならない。
40年以上にわたり国内外でEMC試験システムを提供してきた東陽テクニカは、自社で開発した特許技術を搭載したエミッション計測評価ソフトウエア「EPX」をキーサイト社の最新EMIレシーバー「PXE」と組み合わせ、自動車・車載機器向け電磁波ノイズ測定の最新ソリューションとして展開している(図1)。
このソリューションは、長い測定時間やノイズの見逃しといった従来のエミッション測定で直面した数々の問題を解決し、次世代モビリティー開発を支援する。例えば、従来の掃引型では80秒かかっていた測定が、PXEなら5・8秒だ。EVではSOC(充電率)の規定もあり、長時間の測定ができないという制約があるため、時間の短縮は大きなメリットになる。
また、掃引型測定は広帯域ノイズの測定には不向きとされており、正確なノイズ測定には数十回の測定が必要である一方、このソリューションでは、全てのノイズを1回で簡単に取りこぼすことなく、正確に測定できる。EVに搭載されているインバーターは主にこの広帯域ノイズを発生させるため、このソリューションによりノイズ対策を効率よく実施できる。
自動運転車、コネクテッドカーの実現に不可欠な無線通信品質評価
自動運転の実現には、無線通信の高速化・大容量化・低遅延化・多接続化を可能とする5G/Beyond 5Gの広域ネットワークの利用が前提となっている。特に、通信の大容量化やエラーレートの低減のために、MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を使ったアンテナを搭載した無線通信機が車両に標準装備されるであろう。この評価には、5Gの基地局を模擬する無線機テスターを使ったスループット試験が最適である。
コネクテッドカーにおいては、車両が外部システムと無線通信を行うことで多彩な機能を実現することが期待できる。ITS(高度道路交通システム)構想では、車両同士が無線通信するV2V(車々間通信)、インフラからの情報(信号機、規制、歩行者の情報など)を路側機から車両に送信するV2I(路車間通信)など安全運転を支援するV2X通信技術が考えられているが、車両と外部システムが無線通信を介してリアルタイムに情報交換を行うこと、つまり低遅延化が必須だ(図2)。この評価には、各種シミュレーターを使った遅延(レイテンシー)測定が有効である。
・コンポーネントとしての車載アンテナおよびTCUの通信品質評価
従来車載アンテナの性能は、ラジオやデジタルテレビ放送用途として評価されてきたが、今後自動運転への適用を考えた場合、少なくとも携帯端末と同様に実環境に近い無線通信品質の測定が必須である。3GPPやCTIAといった国際的な携帯端末向けの規格制定団体によって規格化された、実環境を模して空間に電波を飛ばした無線状態、いわゆるOTA(Over The Air)での試験を、用途が近い車載アンテナにも適用することで通信品質を著しく向上させることが期待できる。
OTA測定には、通常、電磁波の反射がない電波暗室が必要だが、それと同等な結果が得られるリバブレーションチャンバーでの測定が代替手法として認められており、東陽テクニカはこれに対応したブルーテスト社製測定システムを取り扱っている(図3)。
このシステムはオフィス環境にも設置することができるため設備投資を低減でき、主要な通信品質判断となるTRP(総合放射電力)/TIS(総合等方向受信感度)やスループットの測定時間を大幅に短縮できる。
・EMC用大型電波暗室を活用した車両の無線通信品質評価
モバイル通信業界では品質向上や性能の担保のために無線通信の試験をすることが一般的になっている一方、車両の無線通信機能の試験方法はまだ確立されていない。車載アンテナの搭載位置や接地状態、また走行中の不要なノイズの発生状況により通信性能が大きく異なるため、車載の無線通信機器は単体で試験するだけでなく、通信機器を搭載した車両全体を対象にして試験を行うことが重要だ。
東陽テクニカが代理店を務めているランロス社は、これまで通信業界で利用されてきた、正確で再現性の高い試験手法を自動車向けに適用した「自動車CATRソリューション」を開発した(図4)。設置が容易で、電磁界の発生に平行波を用いることで床や壁からの反射が低減されるため、既存のEMC試験用電波暗室での試験が可能だ。シャーシダイナモと併用すれば、急発進・急停止などの走行モードやAD/ADAS動作時のOTA測定も実施できる。
・フィールドの電波伝搬を模擬可能なフルスペックの車両アンテナ・無線通信品質評価
車両の無線通信は4Gや5G通信技術を用いているが、より信頼性の高い通信性能評価を実現するために実際の電波伝搬状態に近づけてOTA測定することが重要である。例えば、市街地ではビルなどの構造物による影響で電波がさまざまな方向から車両に到着したり、車両の移動に伴い刻々と電波の経路長が変化したりする。このような環境でも高速通信を実現するMIMO通信技術を正しく評価するには、同様の環境(マルチフェージング環境)を作り出す計測システムが必要だ。
東陽テクニカが取り扱うジェネラル・テスト・システムズ社の「無線通信性能計測システム」では、4G携帯端末向けのマルチパスフェージング環境での試験方法として3GPPに認可されたRadiated Two-Stage(RTS)法を適用し、従来のOTA計測システムでは難しかったMIMO通信技術の性能評価が可能となった(図5)。
自動運転車を実現する車載ミリ波レーダー評価
車両に搭載されているAEB(自動緊急ブレーキ)やACC(前方車両追従式クルーズコントロール)などのADAS機能を動作させるためには、交通状況を判断するために使用するセンサーの役割が非常に重要だ
現在はカメラとミリ波レーダーのいずれかもしくは両方を使用してADAS機能を実現するのが主流。画像処理技術を利用したカメラ画像は比較的簡単に運用できる技術だが、夜間や太陽光でのハレーションなど、不得意な状況が存在する。
一方、電波を利用したミリ波レーダーは可視光での問題がない代わりに、反射散乱の影響、識別距離の短さやカバーできる角度範囲の狭さ、物体の形状が認識できないなど、別の問題がある。そのため、複数種類のセンサーを組み合わせて使うセンサーフュージョンが用いられるようになった。
ラボ環境でセンサー機能を検証する際に多く用いられるのがHILS(Hardware In the Loop Simulation)と呼ばれるシミュレーション手法だが、センサーフュージョンの場合、センサーシステムの組み合わせだけでなく、車両側が提供する情報との連係動作を確認するために実車による検証が必要だ。
現在、この検証には実走行試験が実施されているが、多くの試験を行うことが困難なため、ラボで実車を用いたVILS(Vehicle In the Loop Simulation)環境で検証することが現実的な妥協策として検討されている。
ユニークセック社の「ASGARD」は、このようなラボ環境で車両に取り付けて使用できるレーダーターゲットシミュレーターだ。交通環境シミュレーションソフトウエアを用いて動的な試験シナリオをベースに作成されたターゲット情報を受け取り、それに応じたレーダー信号をリアルタイムで発生させ、実際に道路を走行しているようにミリ波レーダーセンサーを錯覚させることができる。
東陽テクニカが開発したドライビング&モーションテストシステム(DMTS)はASGARDをはじめとした各試験機やシミュレーションソフトウエアを連携させることでVILSまで対応し、自動運転やADASなど高度化された車両システムの検証を室内で実施することで、膨大な工数を要する屋外での評価と比べ、短時間で実施することができる(図6)。
次世代モビリティー開発にはより高度な計測技術や、新しい評価手法の確立などさまざまな課題が存在する。自動運転では、アクセルやブレーキ、ハンドル操作といった人命に直結する制御に無線通信が利用されるため、安全性向上に向けて試験方法の確立が急務であり、既に規格制定団体では規格化に向けて検討が始まっている。
東陽テクニカは今後も電磁波という観点から、EMC試験・アンテナ性能評価・無線通信評価・自動運転技術評価におけるさまざまな技術要求に対し、信頼性の高い計測技術を用いたソリューションを提供することで日本の自動車業界における技術革新に貢献する。
〈筆者=東陽テクニカ〉