2023.09.27 【関西エレクトロニクス産業特集】デジタル時代をけん引する官庁トップに聞く 近畿総合通信局 菱沼宏之局長

菱沼 局長

サイバーセキュリティー対策重視

ICTで防災・減災推進

 -23年度の重点施策が進行中です。現状を聞かせてください。

地域課題解決へ

 菱沼局長 デジタル田園都市国家構想の実現に向け、通信インフラの整備、住民向けスマートフォン教室の開催など、デジタル実装に必要な基礎条件の整備を支援してきた。また、自治体における防災、遭難者捜索、共通投票所開設など地域課題のデジタル実装による解決も支援している。一方、推進力が十分ではない自治体も散見され、府と県、大学、業界団体などと連携し、地域の現状を把握、他地域での取り組みや適切な施策の情報提供など、地域課題解決の取り組みを支援する。

 10月8日から12日まで、京都で国連主催のインターネットに関する国際会議「IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)2023」が開催されるが、地元企業が同会議を活用して、世界に向けて情報発信できるよう協力したい。

 -重点施策では安心安全なデジタル社会の実現に取り組んでいます。

 菱沼局長 サイバーセキュリティー対策の重要性に鑑み、自治体の長や公立病院への説明会の場で、課題の共有や、実践的なサイバー防御演習「CYDER」など、総務省施策を紹介するなど積極的な参加を促している。

 また、関西サイバーセキュリティ・ネットワーク(関西SEC-net)を通じた人材育成やセキュリティー意識、対策レベルの向上に資する施策を実施しており、学校対抗CTF大会(CTF:Capture the Flag。旗取りゲームによるセキュリティーコンテスト)の実施や、管内の商工会議所と連携した経営者層向けセミナーを行う。

 青少年へメディア情報リテラシー向上を図るための学習機会の提供や、青少年自らがインターネットの正しい使い方を伝える動画コンテスト「動画フェスタ」の開催などを通じた啓発活動を行う。

 10月下旬のG7大阪・堺貿易大臣会合では、近畿総通局内に重要無線通信妨害対策実施本部を設置し、警察、航空、放送および報道などの重要無線通信に対する混信・妨害の発生に備えて、迅速に対応できる電波監視体制の強化を図る。

 -ICTによる防災・減災の推進について。

 菱沼局長 近い将来に必ず発生する南海トラフ巨大地震などの大規模自然災害への備えとして、対災害性に着目したネットワークの機能維持が重要と考えている。

 通信サービスの早期復旧の備えとして、必要な資材や機材の搬送手段を確保するため、陸上自衛隊第三師団(兵庫県伊丹市)との協定に基づくヘリコプター空路搬送と、西日本高速道路との協定により同社が管理する道路の通行止め区間を通信事業者所有の車両などが災害発生時に通行可能となる搬送体制も充実させていく。

 また、和歌山県では沿岸部の自治体と共同で、情報通信研究機構(NICT)開発の災害に強いメッシュネットワークシステム「NerveNet(ナーブネット)」を用いた防災訓練を実施している。

 -近畿管内でもローカル5Gの採用が活発ですが。

 菱沼局長 ローカル5Gは地域や産業の個別ニーズに応じて企業や自治体などが柔軟に利用可能のため、地域の課題解決や活性化のための重要なインフラとして期待が大きい。既に管内でも安定した高精細映像の伝送が必要な工場など24者が実用局として免許を受けているのが現状だ。

 8月には一定の条件下で、他者の土地を自己の土地相当とみなすことができる「共同利用」の概念が導入された制度整備が行われた。このため、ローカル5Gの導入が一層進むはずだ。

 -「大阪・関西万博」に果たす近畿総通局の役割・協力について。

万博協会と連携

 菱沼局長 大阪・関西万博は関西経済の起爆剤として期待される。このため、あらゆる場面での未来コミュニケーション環境の創出を目指し、多言語翻訳システムの社会実装の推進や、万博会場での「Beyond 5G Readyショーケース」の展示に向けて、日本国際博覧会協会(万博協会)との連携を図る。

 万博運営のために多数の通信機器や無線通信システムが海外から持ち込まれ、出展者や関係者などの利用も想定される。このため、会場で使用される無線機器の周波数の確保や免許処理などを円滑に進める。万博協会や関係機関との協働により一層の電波監視強化を図り、万博運営用無線システムや重要無線通信などの干渉や妨害の排除に努めたい。