2025.01.21 「認知症2025年問題」の解決にAI活用

MCI高齢者数と有病率の将来推計

認知症高齢者数と有病率の将来推計認知症高齢者数と有病率の将来推計

音声による思考プロセスを踏まえて検査する音声による思考プロセスを踏まえて検査する

スタートアップが集う商談会にも参加し、注目を集めたスタートアップが集う商談会にも参加し、注目を集めた

 医療・介護業界で懸念されている「認知症2025年問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか?2025年は、「団塊の世代」いわゆるベビーブーマー世代全員が75歳以上の後期高齢者になる。この世代は1947~49年に生まれた世代で約800万人に上る。認知症は年配者だけでなく若い世代でも発症することもあるが、圧倒的に高齢者が多い。認知症による社会的・経済的な負担が増大することが懸念され、認知症2025年問題と言われるようになった。

 認知症患者は年々増加傾向にあり、25年には700万人、50年には1000万人に増えると予想されており、医療・介護人材の不足などが社会問題となっている。こうした問題への対策として認知症の早期発見が求められる。AI(人工知能)をはじめとするテクノロジーの進展により、認知症の早期発見を実現する技術が生まれ始めている。

音声AIを活用し、MCIの早期発見を促進

 IGSAはAIアルゴリズム技術を用いた音声解析による認知症の早期スクリーニングサービス「ToSCA(トスカ)」を提供する。同社がターゲットとするのは、認知症の前段階にあたるとされる「軽度認知障害(MCI)」。MCIは症状の程度が軽く、認知症までは進行していない状態を指し、日常生活にはそれほど支障はない。しかし、それだけに周囲からも判別しにくく、症状が進行して認知症を発症してしまうケースも少なくない。MCIの段階で適切な対処ができれば、回復が期待できる。

 IGSAが提供するのは音声言語モデルをベースとしたAIアルゴリズム。スクリーニング検査を起点にしたデータプラットフォームを構築することによりデータを拡張し、より精度の高いアルゴリズムを目指している。MCIのスクリーニング検査はこれまでも存在したが、回答が決まっているものもあり受検者が事前に記憶していた場合、検査の効果が得られないなど課題も多かった。同社が提供するアルゴリズムは音声をベースとしており、回答を出すまでの思考プロセスも踏まえて検査を行う。

自宅で手軽に検査ができる 

 このアルゴリズムをスマートフォンのアプリに実装することで、MCIスクリーニングサービスを提供している。自宅で手軽にMCIスクリーニング検査ができるため、MCIの不安はあるが病院に行くほどではないと考える人にも利用してもらえる。

 同社の梅谷翼COOは「認知症が社会課題になっているが、認知症の早期発見を可能にするMCIスクリーニング検査はまだ十分に整備されているとはいえない。検査できる医師も少なく、MCIの評価基準も曖昧。何よりもデータが不足していることも問題だ。当社ではアプリを使ったサービス提供を通じて、多くの方に検査してもらえるようにした。現在、東京都健康長寿医療センター研究所と共同研究を進めており、当社のサービスを使った検診も昨年10月から実施している。今年4月にはサービスとしてリリースする予定で、医療機関だけでなく、企業や自治体との連携も視野に入れる」と話す。

 同社は22年8月に創業。AI研究で知られる東京大学の松尾研究室発のスタートアップ企業として、AIソリューションの開発・販売を行っている。AIなどのテクノロジーを利用して社会課題の解決を目指す「ディープテック」企業として注目される。少子高齢化社会において認知症対策は必要不可欠。今後も研究開発を進め、社会課題の解決に貢献する。