2025.08.05 AIですい臓がん向け標的分子候補を素早く探索 創薬支援のFRONTEO が確認

実例発表会に臨んだFRONTEOの守本正宏社長(中央)ら=東京都千代田区

 自然言語処理に特化した人工知能(AI)を強みとするデータ解析企業のFRONTEO(フロンテオ、東京都港区)は、AIによる創薬支援サービスで抽出したすい臓がん向けの薬を作用させる標的分子(遺伝子)候補の探索に短期間で成功したと発表した。がん細胞の増殖を抑制する試験を行い、一定の効果を確かめた。創薬の加速化に向けた道を切り開く成果として注目を集めそうだ。

 今回の試験で活用したのは、医薬品開発プロセスの最上流を対象にしたサービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」で、自然言語処理に特化した自社開発のAI「KIBIT(キビット)」に創薬研究者を組み合わせることが特徴だ。

 具体的には、膨大な国内外の論文などの文献を基にAIが疾患と関連が深そうな標的を探索し選定するとともに、標的分子と疾患の関係を示す「仮説」を生み出す。

 DDAIFですい臓がんの標的遺伝子の候補を探索した結果、従来2年以上かかっていた探索期間を2日まで短縮。約2万個あるヒトの全遺伝子から新規性の高い標的遺伝子の候補17個を抽出した。

 このうち、すい臓がんの増殖抑制が確認されたのが6個の遺伝子。さらに、そのうち4個の遺伝子はすい臓がんとの関連性を報告した論文は存在しなかった。残りの2個の遺伝子は、4月時点で論文での報告がわずか1つで、極めて新規性の高い標的遺伝子候補だった。

 抽出した17個の遺伝子について、すい臓がん細胞株で細胞増殖への影響を調べたところ、このうちの6個の遺伝子で約4~6割のがん細胞の増殖抑制が確認されたという。

 同社は検証した結果を踏まえ、キビットが未知の標的遺伝子と疾患の関連性を既知の文献から発見できることを証明した格好だ。

 今後は、効果が見られた標的遺伝子候補について、東京科学大学などと連携して検証する予定。

 がん領域の権威として知られるオクラホマ大学医学部血液腫瘍学内科の武部直子教授は、東京都内で開かれたすい臓がん標的探索の実例発表会にビデオメッセージを寄せた。武部氏はこの中で検証結果に触れ、「新たな治療の選択肢となることを期待している。極めてユニークで価値があり、創薬業界のブレークスルーにつながる研究だ」と述べた。