2025.09.13 政府、AI開発・活用で反転攻勢 年内の「基本計画」策定を目指す

AI戦略本部の初会合に臨む石破茂首相(左から2人目) 出所:官邸のホームページ

記者会見に臨む城内実AI戦略担当相=東京都千代田区記者会見に臨む城内実AI戦略担当相=東京都千代田区

 政府は、世界で最もAI(人工知能)を開発・活用しやすい国の実現に向けて、「AI基本計画」を年内に策定する方針を打ち出した。12日に首相官邸で開かれた「AI戦略本部」の初会合で、AIによるイノベーション(技術革新)とリスク対応を促す基本計画の骨子案について議論した。米中を軸にグローバルサウス(新興・途上国)も巻き込み過熱するAIの開発競争に日本が乗り遅れる危機感が高まる中、政府一丸で反転攻勢を目指す。

 AI戦略本部の本部長を務める石破茂首相は会合で、「AIは社会課題の解決や産業競争力の強化を実現する技術であり、安全保障上も極めて重要だ」とした上で、世界で激化するAIの開発競争に言及。「わが国も反転攻勢をかけるべく、早急に必要な支援策や制度的対応を講じていく」と述べた。さらに国家戦略としてAIによるイノベーションを推進するため、AI基本計画を策定するよう指示した。

 基本計画は、5月に国会で成立したAIに特化した新法に基づくもの。基本構想を示した上で、4つの基本的な方針に沿って「講ずべき施策」を整理した。1つが「AI利活用の加速的推進」。さまざまな局面でAIを利活用する意識を広く社会に醸成し、新しい事業や産業の創出にもつなげる。

 2つ目が「AI開発力の戦略的強化」。信頼できる独自の「AIエコシステム(生態系)」を国内に構築し、海外にも積極的に展開。さらに、開かれた形での開発を志向し、国内外からトップ人材を集約。日本の強みである質の高いデータを生かし、国内でAI開発力を高める施策を盛り込んだ。

 3つ目が「AIガバナンス(統治)の主導」。AIの適正性の確保につながる「PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクル」を絶えず回すほか、ガバナンスの国際協調で主導役を担う。最後の柱は「AI社会に向けた継続的変革」で、AIが産業・雇用や社会に与える影響を検証し対応していく。

 政府が国家戦略づくりを急ぐ背景には、急速なAIの進化がある。今年に入って、自律的に業務を実行できる「AIエージェント」を巡る主要テック企業の動きが活発化しているほか、現実世界のロボットなどを動かす「フィジカル(物理的な)AI」といったイノベーションも進展。こうした中で各国は、国力を左右するAIの開発を競うように加速している。一方で日本は、AIの利活用が十分に進んでいない上、関連の投資も停滞。米スタンフォード大の調査によると、2024年のAIへの民間投資額は米国が1位で約1091億ドルに達し、これに中国(約93億ドル)や英国(約45億ドル)などが続いた。日本の投資額は約9億ドルにとどまり、14位に甘んじている状況だ。

企業や研究機関を後押し

 同本部の副本部長を務める城内実AI戦略担当相は、同日の閣議後会見で、基本計画で示した基本方針について説明。「AIは国民生活や経済社会に密接に関係することから、日本の文化・習慣などを踏まえた信頼できるAIを開発することや、わが国独自のAIエコシステムを構築することが極めて重要だ」と強調。国産AIを開発する民間企業や研究機関による取り組みを積極的に後押しする考えも示した。さらに「わが国の国際競争力を維持していくためには、AI基本計画を当面少なくとも、毎年見直していく」とも述べた。

 基本計画に最新の技術動向などを反映するため、産学官の連携も重視。計画のフォローアップや変更の際に、専門調査会で有識者らの意見を聴取する方針だ。