2025.12.26 TOAと東京工科大学、国内初の実証実験 非常用放送設備のアナウンスを補聴器などに直接配信 

産学連携で実施した補聴⽀援システムの実証実験

実験では字幕表示システムなども活用した実験では字幕表示システムなども活用した

 音響機器を開発するTOAと東京工科大学は、一つのデバイスの音源を複数の受信機に配信できる新規格「Auracast(オーラキャスト)」とWi-Fiを用いた補聴支援システムで、非常用放送設備のアナウンスを補聴器、人工内耳デバイスへ直接配信する国内初の実証実験を行った。

 今回の実験では、同社の開発拠点「ナレッジスクエア」(兵庫県宝塚市)で、聴覚障害や難聴の人14人が参加。システムの実用性・有効性を検証した。公共空間の雑⾳下でも必要な情報が誰にでも届く社会の実現を目指す。

 厚生労働省の2024年調査によると、国内の聴覚や言語障害者は約38万人に上る。総務省の2016年調査では、難聴を自覚している人は約3400万人と推計されている。こうした人々は、公共空間や日常生活で音声情報が届きにくい状況に置かれ、社会参加や生活の質に大きな影響を受けている。そこで今回のプロジェクトでは、同大学メディア学部の吉岡英樹講師が、公共空間で誰もがアナウンスや情報にアクセスできる補聴支援システムの社会実装を狙う。

 イスラエルのBettear社が開発した最新の補聴技術をベースにBluetooth(近距離無線通信)の新規格AuracasとWi-Fiを組み合わせることで、普及する補聴器や人工内耳、ヘッドフォンなどに対応する音声配信システムを構築。専用受信機を必要とせず受信範囲が広く、公共空間でも導入ができる。

 具体的には、鉄道駅の運行案内や空港の運行案内、ビル内の避難誘導の3パターンのアナウンスを用意し、スピーカーで放送。加えて人の声や雑踏などの雑音も取り入れ、公共空間下での日常的な音響環境を再現。また、アイシンのリアルタイム音声認識アプリ「YYSystem(ワイワイシステム)」をシステムと連携した字幕表示機能も実装。スマートフォンなどでの表示に加え、画面を見ずに情報にアクセスできる「スマートグラス」による検証も行った。

 実験では、「スピーカーのみの聞き取り」「スピーカーと補聴支援システムでの聞き取り」「スピーカー、補聴支援システム、字幕表示機能」「スピーカー、補聴支援システム、スマートグラス」という4パターンを用意。その中で、参加者からアナウンスの内容を問うアンケートを実施。どのパターンの内容が理解できたかを確認した。参加者は「大いに役立つシステムだと感じた。アンケートはもう少し簡単に答えることができるものにしてほしい」と話していた。  

 今回の取り組みでは、各業界で実績のある企業と連携した。システムの国内での社会実装に向けて、実用を想定した検証成果が得られるという。今後は騒音や反響の影響に関わらず重要な音声情報を確実に聴取可能とし、安心して情報にアクセスし利用できる環境の整備につなげる。