2021.01.15 【電子材料特集】次世代に照準 R&Dを強化

 電子材料の技術革新が一段と加速している。IT・エレクトロニクス技術や自動車技術が高度化して電子部品・デバイスへの技術要求が厳しさを増す中、電子材料業界には既存技術のブレークスルーのための新しい素材開発が求められる。メーカー各社は、既存材料のブラッシュアップとともに、次世代に照準を合わせたR&Dを強化。第5世代高速通信規格5GやCASE、次世代半導体プロセス、サステナブルなどをテーマに、コア技術を駆使した先端材料開発を推進していく。次々世代に狙いを定めた開発機能強化や事業のグローバル化促進のための投資戦略も活発になっている。

 電子材料は、各種電機・電子機器や電子部品、半導体、ディスプレイ、自動車・輸送機器、FA/製造装置、通信・社会インフラなどの技術進化を支えるコアとして重要な役割を担っている。

 日本の電子材料産業は、高い技術力や高品質・高信頼性、優れた生産技術、継続的なイノベーション、さらには顧客へのソリューション提案力などを武器に、あらゆる機器やシステムの高度化に貢献し、国内外で高く評価されている。

 電子材料メーカー各社はIoTやAI(人工知能)、5G、次世代モビリティといった新潮流が進む中、中長期の成長戦略を一段と強化している。特に、自動車のCASE(コネクテッド、オートノマス、シェアード&サービス、エレクトリック)をメガトレンドとした技術進化や、普及が本格化する5G通信(端末/インフラ)分野では、これらを支える高度な電子材料技術が要求される。

 世界的な環境保全要求/サステナブルへの対応でも電子材料技術が重要な鍵を握る。各社はこれら技術の進化に狙いを付けて、中長期的な視点に立った技術開発やマーケティング戦略、投資戦略を強化し、持続的な成長を目指す。

 アプリケーション別では、100年に一度の大変革期にあるとされる自動車関連分野に照準を合わせたイノベーションが加速している。中でも世界的な環境保全ニーズの高まりを背景に、20年以降は各国政府におけるxEV化シフト前倒しの動きが顕著となり、日本でも政府が「50年に温室効果ガス排出量実質ゼロ」とする方針を打ち出した。

 これにより、EV/PHVの普及を支えるパワーエレクトロニクス系素材や電池材料、車載軽量化素材などの開発の一層の加速が予想される。

 スマートフォンやタブレット端末、ウエアラブル端末など高機能モバイル端末向けでは、5Gの高速大容量通信を支える新規材料開発をはじめ、スマホの薄型・高機能化、次世代ディスプレイ用素材などの開発が進展している。

 半導体関連分野では、次世代半導体プロセス材料の開発が積極的に行われている。半導体露光分野では、次世代露光技術であるArF(フッ化アルゴン)やEUV(極端紫外線)リソグラフィに向けたプロセス材料開発や供給体制拡充の動きが活発で、昨年からEUVの本格量産も始まった。

 半導体の処理速度の高速化やデータの大容量化、高集積化によって半導体チップの回路パターンの微細化が進み、半導体プロセス材料各社は、次世代ニーズを満たす新素材開発で業界標準の獲得を目指している。

 次世代パワー半導体向けの素材開発では、SiC(炭化ケイ素)材料の開発や生産能力増強の動きが顕著だ。このほか、次世代ディスプレイや次世代照明、航空機やドローンの軽量化を支える新規材料開発などにも力が注がれる。

 環境/エネルギー関連では、リチウムイオン電池や全固体電池、太陽電池、燃料電池、蓄電システムなどのイノベーションに向けた材料開発に軸足が置かれている。

 加えて、サステナブルニーズへの対応として、世界的な食糧不足問題や、マイクロプラスチック問題に対処するためのマテリアルリサイクルおよびケミカルリサイクルも重要視される。

 最近の電子材料市場は、米中摩擦の長期化や新型コロナウイルスの感染拡大により不透明感も強いが、電子材料メーカー各社では今後も中長期での事業拡大に向け、積極的な取り組みを展開する。

 21年は特に、普及期に入った5Gが高速伝送や高周波対応のデジタル素材の需要を一段と活発化させることが見込まれるほか、5Gやデータセンター投資の増大により、半導体プロセス素材の需要は21年も拡大が予想されている。

 20年は低調だった自動車やFA/ロボット関連材料市場の回復が期待できるだけでなく、様々な産業分野でのIoTやAIをキーワードとした技術革新が、高度な電子材料技術の活躍の場を一層広げていく。

 エレクトロニクス技術の進化のスピードが速まり、電子材料業界においてもM&A(買収・合併)やアライアンス、国内外スタートアップとの連携といった動きが活発化している。オープンイノベーション戦略を重視する企業も多く、ICTや環境・エネルギー、ライフサイエンスなど様々な分野でオープンイノベーションが志向されている。

 各社のグローバル戦略も引き続き積極的で、海外新プラント建設や海外営業・技術サポート拠点拡充の動きが進展。生産プロセス改善では、デジタル革新による生産性向上への取り組みを強化する。AIやIoTを活用した生産の効率化や高度化、試作から量産までの期間短縮などが図られている。50年などを見据えた「長期ビジョン」策定の動きも旺盛になっている。

 日本の電子材料技術は、あらゆる製造業やインフラ産業の技術変革の担い手として、いっそう重要性が増しそうだ。