2026.06.10 負イオンとオゾン併用の空間浄化技術を開発 安心・快適な室内環境へ実用化目指す 三菱電機
三菱電機 先端技術総合研究所 環境システム技術部の開発メンバー(左から岡垣グループマネージャー、デバイス開発担当の清水さん、デバイスのウイルス・菌への効果評価などを担当した中西さん、弓削部長)
放電設計・制御技術を生かし開発した、負イオンとオゾンを安定発生させる小型デバイス
負イオンの併用によるオゾン酸化作用向上メカニズムとピンクぬめり酵母菌の低減効果
三菱電機は、独自技術で空間を除菌・脱臭し、安心・安全・快適に人が過ごせる室内空間の実現に向けて研究開発に取り組んでいる。
同社は2025年12月に、東京科学大学(Science Tokyo)生命理工学院の蒲池利章教授らと共同で、負イオンを併用することでオゾン(O₃)の酸化作用を向上させるメカニズムを世界で初めて解明したと発表した。
負イオンをウイルス・菌などの周囲に存在する水分に溶解させると、負イオン由来の硝酸系成分によりpHが低下するため、水分中のオゾンの酸化作用が高まり、低濃度のオゾンでもウイルス・菌などに対し強力な低減効果を発揮することを明らかにしたものだ。
負イオンとオゾンを併用することで、オゾン濃度50ppb(0.05ppm)以下で、特定のウイルスに加え、菌・臭気などに対する低減効果を確認した。
ウイルスに加え、試験片に付着した大腸菌や水回りのピンクぬめり酵母菌を1時間で99%低減、汗臭・生乾き臭(4メチル3ヘキセン酸)を1時間で臭気強度1以上(臭気を90%以上)低下する効果を確認している。
この成果は昨年12月15~20日、ハワイ・ホノルルで開催された5年に1度開催される化学分野の世界最大級の国際会議「Pacifichem2025」で詳細を発表。参加した学者からは高い評価と技術の実用化に向けた期待が寄せられた。
世界初の負イオン併用、オゾン酸化作用向上メカニズムを解明
これまでオゾンの酸化作用による脱臭効果やウイルス・菌の低減効果は知られてきたものの、そのメカニズムがわかっていなかった。
また、オゾン自体が極めて不安定で、低濃度で使用する場合、処理対象(菌・ウイルス)に到達する前に分解・消失してしまうため、衛生性向上効果の持続性や安定性に課題があった。
さらに、オゾンの持つウイルス・菌などに対する低減効果は、負イオンを併用した場合に増加することや、pHによって変化することは知られていたが、負イオンの化学種や、負イオンによるpHの制御効果は明らかではなかった。
同社では1990年代から負イオンとオゾンによる応用技術開発に取り組んできた。この技術開発を担当するのが三菱電機の先端技術総合研究所だ。
同研究所環境システム技術部の弓削政郎部長は「当初(90年代)は食品鮮度維持を目的に開発し、食品貯蔵性向上に応用してきた。20年のコロナ禍を契機に、日常空間で衛生性向上に展開できる技術開発を始めた」と話す。
「このなかで、メカニズムの裏付けをとりながら開発を進めるべきという観点で、放電活性種の分析/同定の第一人者で、生物無機化学に詳しい蒲池教授と21年に共同開発を始めた」(弓削部長)という。
今回の成果は「負イオンが存在するウイルス・菌の周囲に存在する微量な水分に溶解することで、負イオン(NO₃⁻)由来の硝酸系の成分で水分のPHが低下し、水分中のオゾンによる酸化作用が高まって、非常に低い濃度のオゾンでもウイルス・菌などに対して強力な低減効果発揮するということを明らかにした」(弓削部長)ものだ。
今回解明したのは、負イオンが水分中でpHを制御するプロセスを明確化し、負イオンの併用によるオゾン酸化作用を向上させるメカニズム。
同社が培ってきたウイルス・菌・臭気の低減効果評価技術と、Science Tokyoが保有する放電活性種の分析・同定技術が解明に寄与した。
空間を浄化する新しい技術開発の課題について、デバイス開発を担当した環境システム技術部 サステナブル環境システム構築グループの清水彰則さんは「オゾンと負イオン併用によるウイルス・菌抑制効果のメカニズム解明と、極めて不安定なオゾンを低濃度で使用する場合、処理対象(菌・ウイルス)に到達する前に分解・消失してしまうという課題があった」と話す。
そこで三菱電機と東京科学大が解決策として二つのテーマを設定した。一つは高度な分析技術により、負イオンの化学種を同定し、負イオン存在下におけるオゾンの反応挙動を解析すること、もう一つは、負イオンの作用によりウイルス・菌近傍におけるオゾンの分解を抑え、低濃度での効率的な作用を実現することだ。
オゾンの酸化作用が、菌・ウイルスを抑制するものの、菌・ウイルスにたどり着く前に消失する課題をどう解決するかは、「オゾンの濃度を高めるか、安定性を高めるかというアプローチの選択となるが、今回は安定性を高めるというアプローチをとった」(清水さん)という。
開発の中で「放電活性種の多角的な検証から、負イオンとオゾンの照射後の水分に含まれる硝酸系イオンがpH低下を引き起こすことを解明」(清水さん)したことが、開発の糸口になった。
イオンクロマトグラフィーやラジカル種を特定するESR(電子スピン共鳴)測定、高反応性分子に対する蛍光分析など放電活性種を多角的に検証。
負イオンとオゾンを照射した水分には、硝酸系イオンが含まれていることを特定し、pH変化を引き起こすことを解明。負イオンとオゾンを一時間照射した水分のpH測定では、中性のpH7から弱酸性のpH5まで低下することを確認した。
「オゾンは、pHが低下する(酸性側)と安定することが知られており、今回負イオンのpHを下げることでオゾンを安定化させ、菌などにアプローチできるようになった」(清水さん)とする。
実際に「大気中の低いオゾン濃度でも、pHが低下することで水分中のオゾンの溶存濃度を測定すると、負イオンを併用しない場合と比べ1.5倍になり、オゾンが安定的に存在でき、水分中のオゾン濃度が向上したことがわかった」(清水さん)と話す。
また、水分中でのオゾン溶存濃度が高まったことで、ウイルス・菌とオゾンとの接触機会が高まる。50ppb以下の低いオゾン濃度でも、室内の付着ウイルス、菌、臭気の低減を確認している。
効果的な負イオン・オゾン発生デバイスを開発
除菌・脱臭に効果的な負イオンとオゾンを安定的に発生させるデバイス開発にも、放電設計・制御技術を生かして独自の工夫を重ねた。開発にかけた期間はコロナ禍が始まってから25年12月までの5年間だ。
開発したデバイスの特長は、負イオンとオゾンを安定的に発生させること、サイズが横幅80mm、高さ26mmと小型であること。将来的に製品内にも搭載しやすいような設計となっている。
デバイスの両脇がイオンの発生電極、中心部分にオゾンの発生電極を設けた構造となっている。
オゾン発生電極の両側にあるイオン発生電極を近づけると、電界が干渉しあうことによって、オゾンが発生しなくなるという。
このため電界の干渉を防ぐ遮蔽電極を設けるなど、最適なオゾン発生を可能とする構造を見出した。
これにより、「(デバイスを)小型化できることが見えてきたことと、どういった機器に取り付け、どういった環境でどれだけの濃度で出すのが良いかといった使い方に合わせ、どういう設計をすればよいか考えられるノウハウを得ることができた」(清水さん)と話す。
弓削部長は、「デバイスの小型化は意外に難しい。コロナ放電を起こすには針先に高電界状態を起こすが、この電界の影響は広く、(電極)1本だけなら簡単だが、複数並べて製品に載せられるよう小型化するのに、遮蔽電極を見出すまで結構時間がかかった」という。
また「負イオン用、オゾン用と分けるパターンもなかなかなく、負イオン用とオゾン用に分けることに達するまで、結構時間がかかった」(弓削部長)。 「1本でイオンもオゾンも両方出すのが一般的だが、負イオンを増やすとオゾンも増えるので使い勝手が悪い。そこをクリアしたというのも大きな特長といえる」(弓削部長)とする。
デバイス開発には、清水さんのほか、清水さんと同じグループでデバイスのウイルス・菌への効果評価に加え、蒲池教授との活性種分析を担った中西亜加音(あかね)さんの2人が携わっている。
開発の責任者として弓削部長も、2人に対し「根気よくやってもらった」と高く評価している。
人が住む全ての空間へ新技術を普及
中西さんは「今回のデバイス開発では、メカニズム検証において負イオン・オゾンが、どう菌に影響したか解明した。オゾンが微生物に作用するというミクロな視点での開発で、さらに効果の高いデバイスができれば良い」と考えている。
ウイルスや菌、臭気の発生を抑えるこの技術は、人が集まる空間やリビング、キッチン、浴室などの生活空間に加え、自動車、電車、飛行機など公共交通機関、移動空間など、多岐での用途が考えられる。
清水さんは今後さらに「デバイスの小型化や高効率化を目指す。また各空間の特性に合わせた最適な除菌・脱臭ソリューションに向けた技術開発を加速し、安心・安全で快適な社会の実現に貢献していきたい」考えだ。
製品化の時期は未定だが、各事業部門と検討を重ねているという。「開発を始めたのがコロナ禍の時期だったので、安心・安全が重要であることを身に沁みながら開発してきた。きちんと社会貢献できるアイテムとして出していく」(清水さん)と話す。
環境システム技術部サステナブル環境システム構築グループの岡垣覚(さとる)グループマネージャーは「(普段)研究開発の部門では、(開発した技術を)何とか世に出したいとやっているが、社会課題を解決したいという思いが強くある」と話す。
「メカニズムの解明やデバイス開発によって、皆さんが日々住まう環境をより快適で、安心・安全にしたい。(今回の技術は)ゆくゆくは宇宙も視野に、いろんな環境に人間が住む未来を見据え、われわれの研究成果を生かしていけるよう頑張りたい」(岡垣GM)と夢は広がる。
弓削部長は「ウイルス・菌を抑制する技術は、他社に比べると後発だが、コロナ禍を経て、これらによる目に見えない恐怖感や警戒感が根付いて、これからもこのニーズは続く。その意味で当社がこうした課題にソリューションを提供していけるという点では、キラーな技術の一つになっていく」と位置付けている。










