2021.01.08 【5Gがくる】<25>ローカル5G×VRでビジネスが広がる ③

 最新のVR(仮想現実)では、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を頭に装着さえすれば、仮想空間に入って視界を360度巡らせながら、その中を自由に歩き回って様々な動作ができるようになる。そのため、VRの用途はゲームだけでなく、ビジネス領域にも広がり始めている。

 特にウィズコロナ時代の働き方においては、そのニーズは急速に高まっている。例えば、テレワークでありながら、まるで出勤時と同じようなバーチャルオフィスで作業したり、まるで対面しているようなバーチャル会議に参加したりできる。

5G×VRによるバーチャルオフィス(テレワーク)

VR普及に壁三つ

 今まで、VRの普及には大きな三つの壁があった。

 一つ目は、HMDの価格が高く、かつ高性能PCも必要なため、導入コストが高かったこと。二つ目は、重いPCとHMDをUSB接続して使用するため移動性が低く、ケーブルが仮想空間における動きの支障になっていたこと。三つ目は、移動性の高いワイヤレス型のHMDでも従来のWi-Fiで接続すると遅延が発生して、映像がリアルタイムに追尾できなかったことだ。

 真のVR体験を実現するにはワイヤレス型HMDの進化に期待がかかるが、それには高精細映像に必要な「超高速」だけでなく、「超低遅延」が技術要件となるだろう。そこで、「5G」対応のワイヤレス型HMDが満を持して登場した。

 「Oculus Quest2(オキュラスクエスト2)」は、PCが不要なスタンドアローン型のVRデバイスで、加えて安価だ。本体端末にはクアルコム社の5G対応VR/AR向けチップ「Snapdragon(スナップドラゴン) XR2」が搭載されている。

 スナップドラゴンと言えば、Androidスマートフォンの多くに搭載されているCPUのシリーズだから、聞いたことがある人も多いだろう。ベースになっているのが同社の「Snapdragon 865+5Gモバイルプラットフォーム」と呼ばれるSoC(System on a chip=システム・オン・チップ)。SoCは、CPUと連携する多くの機能をチップ上に集積した回路のことだ。

Wi-Fi 6

 ここでは5G対応のSnapdragon XR2について考えてみたい。

 まず、5G仕様を見てみよう。利用できる電波はサブ6(最大周波数帯域は200メガヘルツ幅)とミリ波(同800メガヘルツ幅)。最大通信速度は上り3ギガbps、下り7.5ギガbpsと超高速だが、ビジネス向けらしい。

 一般向けには、超高速のWi-Fi 6を利用できる。HMDディスプレイ仕様は、4K(60ヘルツ=60フレーム/秒)の超高精細映像が可能だ。

 しかし、仕様の記載がない遅延は、免許の必要な5Gの「超高信頼・低遅延(HRLLC)」や「超高速(eMBB)」に比べ桁違いに大きく不安定だ。そのため、電波の状態が悪い時には乗り物酔いの恐れがあるだろう。ちなみに、4Kでの360度3D高精細VR映像の5Gによるストリーム配信は、違和感なく没入できるという。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉