2025.09.19 【電子部品メーカー/商社 ASEAN拠点特集】ASEAN地域 法定最低賃金の上昇続く

 ASEANでは、経済成長とインフレの進展、外資系企業の工場進出増加などを背景に、各国の法定最低賃金の上昇が続いている。2025年もすでに多くの国が最低賃金引き上げを実施した。26年の改定値を発表した国もある。

 ASEANの工場ワーカーの法定最低賃金は、「チャイナ+1」としてASEAN再投資の機運が高まってきた2010年ごろから上昇が加速。10年代後半はやや上昇率が鈍化したが、それでも国によっては毎年1割近い金額の改定が実施された。

 新型コロナ感染症拡大が深刻化した20年と21年は大半の国がコロナ禍による経済へのダメージを考慮して改定を見送ったが、コロナが落ち着いてきた22年以降は、再び各国が一斉に法定最低賃金の引き上げを実施している。

 加えて、近年は業界の「脱中国」志向が強まり、中国系企業を含む外資系製造業のASEAN生産シフトが一層加速していることから、ASEANの労働市場は活況な状況が続いており、法定最低賃金と実際の初任給との乖離(かいり)も拡大している。

 ASEANの中でも「脱中国」の有力な受け皿として外資系企業の投資が活発なベトナムでは、24年7月に2年ぶりの最低賃金引き上げが実施され、最も高額な第1地域(ハノイ、ホーチミンなど)では月額が従来比5.98%増の496万ドンに上昇。さらに、26年1月には平均7.2%の引き上げが発表され、第1地域では月額が531万ドンに改定される。

 フィリピンでは、25年7月に4年連続の最低賃金引き上げが実施され、マニラ首都圏では日給が従来比50ペソ増の695ペソに改定された。インドネシアでは、25年1月の改定により、ジャカルタ首都特別州の法定最低賃金が従来比6.5%増の539万6761ルピアに上昇している。

 多くの日系企業が工場を展開するタイでは、25年1月の改定で、製造業が集積するチョンブリー県やラヨーン県など4県1群で法定最低賃金が日給400バーツに引き上げられていたが、今年7月の改定でバンコクも日給400バーツの法定最低賃金が適用された。

 マレーシアは、今年2月に、22年5月以来約3年ぶりとなる法定最低賃金改定が実施され、現在は全国一律で月額1700リンギット(従来比13.3%増)が適用されている。

 ASEAN主要国では、国によっては、法定最低賃金改定が毎年ではなく、隔年などで実施されるケースも多いが、実際の日系進出企業の現地法人では、毎年、安定的な初任給引き上げを実施している。

 国によって最低賃金の定義は異なり、また、実際の給与水準と法定最低額との乖離が激しい地域もあるため、単純比較ができない。それでも、ASEAN工場ワーカーの賃金レベルは、シンガポールを除けば、中国沿岸部との比較では割安な数値となっている。ただし、数年前との比較では、ASEANのワーカー賃金も着実に上昇している。

 加えて、ここ数年の日本円の実質実効為替レートの低下も、円換算時のASEANの法定最低賃金を押し上げている面もある。

 このため、現地進出の日系電子部品メーカー各社は、継続的な生産性改善活動や生産ラインの自動化・省力化推進、徹底した無駄の排除、業務の高付加価値化や効率化を進めることで、収益性の向上を追求する。直接業務および間接業務の効率化を図るため、AI(人工知能)技術の積極導入に取り組む企業も増加している。

 ASEAN10カ国の総人口は約7億人に達する。少子高齢化の進展により人口が減少に転じているタイなどを除けば、多くの国で今後も人口の増加が見込まれ、ASEAN総人口は今後も安定的に増えていく見通し。このため、「中国沿海部に比べれば、労働力の確保も比較的容易」という企業が多い。