2024.02.16 SLIMの成功を支えたエレ業界や素材企業 宇宙ビジネスへの気運向上も
振動試験時のSLIM(三菱電機のサイトから)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型無人探査機「SLIM(スリム)」のピンポイント着陸成功には、エレクトロニクス・素材系の日本企業の様々な要素技術が活躍した。三菱電機に代表される大手のテック、シャープの太陽電池などのほか、中興化成工業が製造する、ふっ素樹脂製の「ダイアフラム」なども貢献した。宇宙ビジネスへの参画の機運がさらに高まりそうだ。
三菱電機は主開発担当としてJAXAから選定されたが、その開発は困難の連続だったという。不具合が発生すると、原因を一から洗い出さないといけなかった。高精度の着陸を支える「航法誘導制御系」を担った。さらに、社内外への情報発信をも手掛け、担当者はサイトで「チームJAPANの一体感を感じました」と喜びの声を紹介した。
シャープの取り組んだ太陽電池は、2022年当時で世界最高の変換効率32.65%を達成したモジュールと同様の技術で開発。薄いフィルムで太陽電池セルを封止した構造のため、軽量かつ曲面への搭載も可能なフレキシブル性を備え、高効率化と軽量化が求められる宇宙用途に適した仕様を実現している。
着陸姿勢が想定と違う「逆立ち」だったため、当初は太陽光の当たる角度の関係で発電できなかったが、正常に稼働し月面観測を支援した。
SLIMから投下された小型探査ロボットは玩具メーカーのタカラトミーなどが開発。撮像の成功などを通じて、今後、さらなる研究に貢献しそうだ。
また、一見目立つ役割ではないものの、大きく貢献したのは中興化成。ポンプの機械部分と送る液体を隔てる弾性の膜である「ダイヤフラム」で参画した。
14年にJAXAから相談を受け、開発を開始。課題となったのは、薄く加工する難しさ。ダイヤフラムの軽量化=樹脂の薄肉化(厚さを薄くする)が求められる。変形しやすい樹脂のため、高精度の切削加工が難しいことに加え、薄さが変わることでダイヤフラムの動きにも影響が出るため、要求される動きや加工精度を具現化するのに苦労した。しかし、これまで培った加工技術を応用、加工時の固定方法を工夫することで、薄肉化に成功した。
JAXAの山川宏理事長は今月の会見で電波新聞などに対して、着陸成功を振り返り、「参画する企業が強みを持ち寄ってくださり、チームワークを発揮した。それを支えてきたのは担当者の熱意」とたたえた。さらに、日本企業の強みのアピールにもなったとの見方を示し、今後の展開にも期待を寄せた。
(16日付電波新聞/電波新聞デジタルで詳報しています)