2025.04.14 医療・医薬品分野に広がるAI テック企業から多彩な革新サービスが続々登場
BiPSEEのAIアバター映像
医療や健康などを含むヘルスケア領域で、AI(人工知能)を活用したサービスが広がっている。それを印象付けた展示会が「ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ 2025」で、医療現場向けトレーニングや医薬品の相談などを支援する先駆的なAIサービスが集結。成長が見込まれるヘルスケア市場の今後を占う場となった。
今回の展示会は、イベント企画運営の「インフォーマ マーケッツ ジャパン」が主催する国内最大級の製薬業界向けイベントで、東京ビッグサイト(東京都江東区)で9日から3日間にわたり開催。参加した105社が「研究・開発」「デジタルヘルス」など五つのテーマゾーンに分かれて展示し、出展数も300超に上った。
中でも存在感を放っていたのが、多彩なテック企業だ。VR(仮想現実)技術を生かす医療向けソリューションなどを手掛けるBiPSEE(同渋谷区)は、展示物の一つとしてAIサービスを披露。「AIアバター」を活用した医師やピアサポーター(当事者意識を持つ支援員)向けトレーニング映像を紹介した。
これは、研修の機会を増やす目的で開発。例えば、がん患者を支援するピアサポーターが患者の分身を担うAIアバターを相手にやりとりの練習を繰り返す。AIアバターがピアサポーターに対して「NGワード」を指摘するなど基本的なやりとりを指導。さらに、AIが予測不能な回答を出す特性を逆手に取り、扱いが困る患者をアバターに演じさせることも可能だ。
自律的に働くAIエージェントを生かすサービスを展示したのが、オンライン漢方薬局を運営するPharmaX(同文京区)だ。一つが、医薬品の購入や体調の悩みをサポートするAIエージェント「きくロボ」で、安全性を確保しながら運用できる。
加えて、薬剤師の働き方を変革するAIエージェント「薬局ロボ(仮)」もアピール。一つの画面で在庫情報や薬歴情報などを統合管理できるため、薬剤師の業務が大幅に効率化できるようになる。
ライフサイエンス領域を中心に研究活動を後押しするfuku(同中央区)にも注目が集まった。同社は論文から有用情報を抽出する取り組みで実績を積み、大規模言語モデル(LLM)などのAI技術を駆使して幅広い研究支援に取り組む。ブースでは、LLMに情報検索を組み合わせて回答の精度を高める「RAG(検索拡張生成)」など、科学の発展を支える多様なソリューションを紹介した。
進行する少子高齢化を背景に医療・介護現場の人手不足が深刻化する中、こうした課題の解決で果たす先進技術の役割が増す方向にある。AIエージェントに期待する効果について、PharmaXの取締役CTOでAX事業部長も務める上野彰大氏は「生成AIと違って人の仕事を任せることができる」と強調。その上で、現場業務の一部をAIに置き換える可能性に触れ、「人がやらなくていい仕事をAIに任せると、人にしかできない仕事に集中できるようになる」との見方を示した。
技術革新で現場業務の効率が高まると、現場で増えた時間を医療・介護サービスの質を高める活動に振り向けられる。そうした観点からも、テック企業の挑戦に注目が集まりそうだ。