2024.06.08 長持ち家電トップの冷蔵庫 実は暑さに弱い? スマホで庫内見られるまでに進化

 食品の保存庫として家庭に欠かせない冷蔵庫。そんな冷蔵庫が夏に壊れやすいというのを知っていますか?「え、そうなんですか!」と驚きを隠さない新入社員の反応から、「意外と知られていないのかも」と考えたベテラン記者が、冷蔵庫の進化とともに最新事情を解説してくれました。

 新入社員 冷蔵庫というと、ただの食品の保存庫という印象しかありませんが…。

 記者 間違いではありませんが、冷蔵庫もかなり進化していますよ。

 冷蔵庫は、戦後の日本で「三種の神器」と言われ、いち早く普及した耐久消費財の1つです。当初は2ドアや3ドアといった小型タイプが主流でしたが、最近は5ドアや6ドアといった食品を保存する部屋の細分化が進むとともに、大型タイプが主流になっています。日本の住環境を考慮すると置ける家庭は限られてきますが、庫内容量が700リットルを超える超大型品も売られています。

 こうした多ドアな冷蔵庫は「日本ならでは」と言われています。世界的に見ると主流とは言い難く、「ガラパゴス的だ」との指摘もあります。きめ細かな性能や機能を求める日本人の気質に合わせて冷蔵庫は進化してきたのかもしれませんね。

 新入社員 ガラパゴスと言われるのは、携帯電話だけじゃなかったんですね。冷蔵庫は電源を入れっぱなしなので、電力の消費量が多そうです。

 記者 冷蔵庫は家庭で使う家電の中でも、最も電力を消費する製品の1つです。食料品を冷やすために24時間365日運転していますからね。

 資源エネルギー庁によると、家庭内での冷蔵庫の電力消費量の割合は、夏季が17.8%、冬季が14.9%とそれぞれエアコンに次ぐ2番目に多いです。だからこそ、冷蔵庫メーカー各社は、省エネ性の向上に力を入れているのです。

 新入社員 具体的にはどういった技術が使われているのですか。

 記者 冷蔵庫の背面などさまざまな場所に断熱性の高い真空断熱材を搭載して保冷力を高めたり、インバーター制御で消費電力を最適化したりと、ハード面での進化が目覚ましいです。冷蔵室や野菜室など部屋ごとにセンサーを搭載し、開閉状況や使われ方などをAI(人工知能)が学習し、省エネ運転につなげるソフト面での進化もあります。家電メーカーが加盟する業界団体の日本電機工業会(JEMA)によると、最新技術が搭載される大型冷蔵庫は、10年前に比べて電力消費量が35%程度減少しているとしています。

 新入社員 10年前に比べるとそんなに違うんですか!凄く省エネになっているんですね。冷蔵庫は大型の方が人気なんですよね。

大型冷蔵庫が市場では人気

 記者 共働き世帯の増加などもあって、週末にまとめ買いをする家庭が増えていますからね。作り置きした料理を保存するニーズも強まっています。たくさん買ったり作ったりした食品を保存するには庫内も大きくないと。

 業界的には、庫内容量が401リットル以上を大型冷蔵庫としてカウントしています。今では、冷蔵庫全体の半分近くを占めるまでに拡大しました。2023年度では出荷台数の約45%を占めています。

 新入社員 省エネ以外でも進化しているんですか。

 記者 冷蔵庫にとって最も大切な役割は、なんといっても食品をおいしく保存することです。そのためには食品の鮮度保持技術の進化が欠かせません。

 例えば野菜室では、センサーで監視して適度な湿度を保ったり、野菜から放出されるエチレンガスなどを分解する触媒を使って鮮度を保ったりと、野菜のシャキシャキ感やおいしさをできるだけ保つ技術の搭載が進んでいます。

 これまた鮮度が重要になる魚や肉を、チルドルームや冷蔵室よりも低温で冷やしつつ、凍らせずに保存する専用スペースを設けるなど、食品に合わせて最適な収納場所を選べるような構造に進化しています。業務用レベルの急速冷凍でおいしさそのままに素早く凍らせるといった冷凍技術の向上も目が離せません。特に庫内が広い大型冷蔵庫には各社が多様な機能を盛り込んでいます。

 新入社員 食品によってしまう場所を色々と選べるんですね。でも、気づいたら賞味期限が切れているなんてことも…。

 記者 そういうことは誰しも経験がありますよね。食品ロスは社会的な課題にもなっているので、冷蔵庫としてそれを防ぐ機能の実装が、実は進んでいるんです。

 鮮度保持性能の向上は、食品を長持ちさせるという点では直接的に影響してくるところです。同時に、IoT技術を活用して食品ロスを減らそうとする動きも本格化しています。

 「冷蔵庫に何が残っていたっけか」。スーパーに買い物に行った時、こんな経験をしたことはありませんか。冷蔵庫の中身が見れれば買わなきゃいけないものが分かるのに――。

 IoT技術の進展でそんな思いを形にした冷蔵庫も、日立やパナソニック、アイリスオーヤマから発売されています。カメラを冷蔵室上部に取り付けるなどし、ドアを開くと写真を撮影。クラウド上に保存しておくことで、外出先から庫内の最新状態をスマートフォンで確認できるという機能です。うまく活用すれば、同じ食品の二重購入など、食品ロスにつながりかねない事態を未然に防ぎやすくなりますね。

冷蔵室上部のカメラで庫内を撮影し、外からスマホで確認できる機能を備える冷蔵庫もある

 新入社員 冷蔵庫がすごく進化していることが分かりました。全体的な需要はどうなっていますか。

 記者 23年度の国内出荷台数は前年比4.9%減の344万5000台にとどまりました。コロナ禍の巣ごもり消費で冷蔵庫も需要が拡大し、その反動や最近の物価高の影響をそれなりに受けている状況と言えるでしょう。買い替えサイクルが長期化する傾向も伺え、その影響もありそうです。

 タイガー魔法瓶の調査では、最も長く使う家電のトップは冷蔵庫という結果になっています。内閣府の調査では平均使用年数は13年弱。2年前に冷蔵庫を買い替えた私の実家では、17年間も使っていました。

 冷蔵庫は機能や性能の進化と合わせて、メーカー側の製品開発における努力もあり、故障もしにくくなっています。ただ、家電である以上、壊れてしまうこともあります。

 新入社員 それが夏に壊れやすいということなんですか。

 記者 そうです。冷蔵庫を設置する際には、側面などに一定のスペースを空けるようにしていますよね。冷蔵庫からの熱を逃がす放熱スペースで、例えば35度以上の猛暑日には、周囲が暑くなり過ぎて十分に放熱できなくなり、庫内が冷えにくくなることもあります。そうなると、冷やすために不可欠なコンプレッサ―がさらに冷やそうとしてパワーを出し、過度な負担がかかることがあります。それが故障の原因になることがあるのです。

 新入社員 だから夏に冷蔵庫が壊れやすいんですか。よくわかりました。