2024.06.18 EV「熱暴走」抑制へ 電池の異常発熱防止に新技術 米ダウや積水化学など

積水化学工業のEVバッテリーパックカバー用「難燃軽量シート」の試作品

NOKの「セル間断熱・弾性ゴムシート」NOKの「セル間断熱・弾性ゴムシート」

 電気自動車(EV)の「熱暴走」を抑える――。電子部品・材料メーカー各社は、EVの事故発生時のバッテリー延焼を防止する技術開発に力を注いでいる。高容量のリチウムイオン電池(LIB)を搭載するEVは、事故発生時にLIB内部が異常発熱し、際限なく温度が上昇する熱暴走が起きるケースがある。事故発生時の電池セルの温度上昇を抑制したり、延焼防止につなげたりする安全性能の向上を目指した技術開発が進む。

 世界の自動車市場では、従来のガソリン車からEVへのシフトが進む一方、EVはⅬIBが熱暴走すると、セル温度が800度から1000度以上に上昇。発生するガスも700度から800度になるとされるため、バッテリーの発火や爆発など重大事故につながるリスクがある。これらに対処するため、現在、バッテリーが熱暴走した場合でも、搭乗者が車から脱出するための時間を最低5分間確保するなどのガイドラインが設けられている。今後は法規制も順次、進むことが予想されている。

 電子部品・材料各社は、こうしたニーズに応える技術開発を加速している。

 米国の化学メーカー大手Dow(ダウ)は、円筒形セルを用いたEVバッテリー延焼防止ソリューションを開発。同社は、意図的に熱膨張させた円筒形セルを使い、シリコーンフォームでセル間を封止した場合と封止していない場合とでセルの温度上昇の違いを検証する熱暴走テスト(熱伝播試験)を実施。その結果、セル間に封止が無い状態では、各セルともに最高温度が1200度程度まで到達したのに対し、封止が有る状態では中央セルに隣接するセルの最高温度は125度程度、対角セルが100度程度に抑制できた。

 ポリプラスチックスは、EVバッテリーの熱暴走対策に適した高性能樹脂「DURAFIDE PPS 6150T73」を開発。1000度の環境に30分放置してもⅬIB内部のバスバーの被覆状態を維持できるため、無機物のシートなどを使わなくても、熱暴走時の断熱や絶縁に活用できる。

 NOKは、EVバッテリーの熱暴走対策として、バッテリー内部の圧力を逃がすための圧力開放弁の開発を進めている。バッテリーの性能低下を抑制し、難燃性を備える「セル間断熱・弾性ゴムシート」も開発。通常のゴムシートはセルが膨張すると反力が急激に増加するが、断熱・弾性ゴムシートは一定の反力を確保し、適切な荷重でセルを支持することができるため、車の衝突時などにセルの1つが発火しても隣接セルへの伝熱を緩和する。

 積水化学工業は、EVバッテリーカバー用に、遮炎・断熱性を有する「難燃軽量シート」の開発を進めている。自己消化性樹脂を使用しているため、裏面発火がない。優れた断熱性により、カバー裏面温度の上昇を抑え、周辺部品の発火を防止する。断熱材や固定材が不要なため、現行品と比較して大幅な軽量化が可能だ。

(19日付電波新聞/電波新聞デジタルで詳報します)