2020.05.29 【スマートファクトリー特集】国内外で関心が高まる、将来の全自動生産を指向

実装機各社は「スマートファクトリー」をグローバル市場で推進している

日本発のSMT標準規格「SMT-ELS」は、国内外で普及活動が進んでいる(IPC APEX EXPO 2020)日本発のSMT標準規格「SMT-ELS」は、国内外で普及活動が進んでいる(IPC APEX EXPO 2020)

 IoT技術を駆使して、生産性を大幅に高める「スマートファクトリー」への関心が国内外で高まっている。

 これまで大手企業先導で進んできた工場のスマート化が、中小工場でも導入の機運が高まりつつある。実装機、実装機関連各社は他企業との連携を広げつつ、「スマートファクトリー」をグローバルに推進する。

 日本のモノづくりは、労働人口の減少、熟練技術者の後継問題への対応など様々な課題を抱えている。「世界の工場」の中国も、国連の人口予測では35年に65歳以上の高齢化率が20%を超える「超高齢化社会」が到来し、労働人口の減少に伴うモノづくり問題が深刻化する。

 加えて新型コロナウイルスの感染拡大で中国をはじめ世界各地で工場閉鎖が起きたことで、BCP(事業継続計画)やサプライチェーンの在り方が問われ、人的な感染拡大を避けるためにロボットや工場のスマート化による生産自動化、さらには全自動工場、無人化工場に対する関心はますます高まりを見せる。

 日本ロボット工業会がまとめた今年1-3月の産業用ロボットの受注・生産実績によると、受注額1718億円(前年同期比10.1%増)、生産台数4万5587台(同8.1%増)など増加した。

 「スマートファクトリー」は、工場内の生産設備とインターネットを接続し、生産プロセスを可視化や最適化することで、生産性を大幅に向上させようというもの。

 もともとドイツ政府が製造業界全体の徹底した効率化と高品質化の実現により、ドイツ製品の国際競争力を高める国家プロジェクトとして、第4次産業革命「インダストリー4・0」を提唱したことに始まる。

 日本でもIoT、ロボットなどで製造現場をより効率化するための「コネクテッド・インダストリーズ」を提唱している。

 実装各社が推進するスマートファクトリーは、IoT、AIなどの技術と組み合わせ、装置と装置をつないでデジタルデータをやり取りすることで、人手を介さず装置自体の自己完結型で高品質生産を目指している。

 プリント基板の表面実装工程の最終の検査装置で部品搭載漏れなど不具合が見つかれば、その情報を実装機に送って自動的に修正、不良生産をなくす。

 昨年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた惑星探査機「はやぶさ2」が地球から約3億キロメートル離れた小惑星リュウグウに到達し、高度なプロセスを無人でこなしながら試料を採取する光景がテレビ映像などで紹介された。

 スマートファクトリーが目指す究極のモノづくりは、はやぶさ2の作業プロセスと同じで「全自動生産」にある。しかし、スマートファクトリーの導入は課題も少なくない。

 多額の初期投資が必要になり、最新機器を操作する作業者の教育コストも発生する。また最新設備のメンテナンスが必要で、これは人の手によるところが大きい。

 こうした課題から、これまでは大手企業の工場主導で進んできたが、中小工場でも導入の兆しが見え始めた。

 中小規模の工場でもロボットを導入したり、既設のアナログ計器の指針をカメラやセンサーで読み取り、その数値をデジタル化してクラウド経由で遠隔監視するといった、中小工場がスマート化しやすいシステムの開発、提案が始まっている。

 生産現場のIoT化は、生産設備の稼働状況の「見える化」から始まるといわれることから、様々な生産設備に使われている軸受、直動案内機器などの機械要素部品から「見える化」を実現する手法が広がり始めた。

 直動案内機器の振動や音をセンシングし、収集データをデジタル化することで、装置の状態をPCやスマホで「見える化」する手法が相次いで開発されている。

 収集したデジタルデータの微小な振動変化や異音を分析し、装置の故障を予知したり、メンテナンスのタイミングが確認できる。既設の生産設備に後付けが可能で導入コストが抑えられ、中小も導入しやすい。

 金属加工品を生産しているある企業は、熟練技術者の後継者不足から、研磨など「匠の技」をデジタル数値化。その技術を作業者で共有するとともに、クラウド経由で別の工場でも活用する。

 日本発の表面実装M2M通信規格「ELS」を世界標準へ

 日本発の表面実装M2M通信規格「ELS」が世界標準に向け動き始めた。日本ロボット工業会はSEMIと一体になり、表面実装ラインのグローバルM2M通信スタンダード「SEMI SMT-ELS(イーエルエス)」の普及に取り組んでいる。

 SEMI SMT-ELSは、日本ロボット工業会が中心になり、メーカーの異なった印刷機、実装機、基板検査機などが存在する表面実装ラインの通信ルールを標準化してオープンな接続環境を構築するため、半導体関連の国際業界団体SEMIが提唱するM2M通信規格「SEMIスタンダード」をベースに、18年6月に標準化規格をまとめた。

 同工業会とSEMIのグローバル標準化規格をSMT-ELSとして統一し、両者一体となって普及に取り組んでいる。

 標準化されることで、実装ラインにおけるネットワークを使用したM2Mの基板搬送、SMT実装ライン全体の生産機種切り替え、M2Mによる検査結果情報の受け渡しなどを実現し、実装システムもシンプルに構築しやすくなり、生産管理の容易化・変種変量生産への迅速対応なども可能になる。

 普及を促進するため国内の製造装置展のほか、海外でも「ネプコンアジア」(19年8月、中国・深圳)、「Productronica2019」(19年11月、ドイツ・ミュンヘン)に続いて、今年2月にアメリカ・サンディエゴで開催された「IPC APEX EXPO 2020」にもブースを設けて訴求した。

 各展示会では、FUJI、ヤマハ発動機、パナソニック、JUKIの実装機を同規格で連結した実装ラインを展示した。実装機は、日本メーカーが世界市場の8割を占有する。日本発の世界標準化の努力に期待が高まっている。