2023.05.26 【日刊自動車新聞×日刊電波新聞】「自動車技術の最新トレンド」(2)エンジンサプライヤーの生き残り策〈上〉
フタバ産業は既存製品で培ったレーザー溶接や熱マネジメントの技術を生かした新製品を展示
中国をはじめ世界的に電気自動車(EV)の市場拡大が続き、自動車メーカー各社はEVの投入を加速させている。EVはエンジン車と比べて部品点数が最大で半減するとの見方がある。各国の基幹産業として自動車産業は裾野の広いサプライチェーンを築いており、エンジン関連サプライヤーに与えるインパクトは計り知れない。今回の「人とくるまのテクノロジー展」でも、エンジン関連サプライヤーによるEV時代の生き残りに向けた提案が相次いだ。
自動車の構造はEV化によって産業構造が大きく変化する。例えば、電動化でもハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を含めたエンジン搭載車の場合は、既存のエンジン関連のパワートレインに加えて電動化部品が増えていくといった構図だ。
一方、EVとなると、プラグやピストン、排気管(マフラー)、燃料タンクなどのエンジン関連部品が不要となるほか、クラッチやトランスミッションといった駆動系部品も不要となったり、エンジン搭載車とは求められる性能が異なり、結果としてシンプルな構造となる。
EV化の影響について、軸受け大手の日本精工は「EVになるとベアリングは、エンジン車と比べて搭載数が2~3割減ると見込んでいる」と説明する。
トヨタ系サプライヤーで排気系部品を手がけるフタバ産業も、排気系や燃料系のエンジン部品の売り上げ比率(支給品を除く)で約3割を占めており、新車販売の4割がEVとなると実質売り上げに1割の影響が生じるという。
自動車産業は、日本では就業人口の約1割が関わる基幹産業と位置付けられており、部品点数が大幅に減ることは、裾野が広い自動車産業において頭の痛い問題だ。中でもエンジン関連部品が事業の中心のサプライヤーにとってEVシフトは、まさに死活問題といえる。
このためトヨタ自動車をはじめとした日本の自動車メーカーは、二酸化炭素(CO₂)の排出量削減の方針として、EVだけではなく、HVやPHV、燃料電池車(FCV)、水素エンジン車を含めたマルチソリューションでの取り組みを訴えている。広島で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも、日本の多様な環境対策技術を世界にアピールした。
また、欧州連合(EU)の欧州委員会とドイツ政府は3月、これまでHVを含むエンジン車の販売を2035年に禁止する予定だったが、35年以降も条件付きで内燃機関車の販売を認める方向で合意し、合成燃料を使う場合に限り認めると発表した。EVシフトを急いできた欧州だが、政策が具体化するにつれて加盟国の足並みが乱れ、政策を修正する動きが出てきた格好だ。
EUの合成燃料の容認は日本勢にとっては追い風だが、合成燃料にはさまざまな課題が山積しているのも実情だ。
CO₂と水素を合成して製造する合成燃料は、工場から排出されたCO₂や再生可能エネルギー由来の水素を用いることで、カーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)と見なされている。
ただ、水素のコストが高く、政府試算によると国産の水素を使って国内で合成燃料を製造する場合、1リットル当たり約700円となり、このうち9割が水素関連のコストとなる。
政府も合成燃料の普及に向けて設備投資や技術実証を支援するが、商用化の時期は早くても30年代前半という見通しを示すなど、本格普及にはしばらく時間を要する状況となっている。
(日刊自動車新聞)