2025.11.18 信越化学の300mm QST基板上に、IMECが650V超のGaN破壊電圧の世界最高記録を達成
信越化学工業が開発した300mmのGaN(窒化ガリウム)専用の成長基板であるQST基板を用いた5μm厚のHEMT(高電子移動度トランジスタ)デバイスが、ベルギーの半導体研究機関、IMEC(アイメック)の300mm GaNパワーデバイス開発プログラムのサンプル評価で、300mm基板として世界最高記録となる650Vを超える高耐圧を達成した。
同社は、米国QROMIS社(カリフォルニア州)のライセンスのもと、150mmと200mm QST基板、さらにさまざまな直径のGaN-on-QSTエピタキシャル基板を製造している。2024年9月からはQROMISと連携し、300mm QST基板のサンプル提供を開始した。
さらに両社は、IMECとの間でベルギーのルーヴェンにあるIMECの最先端300mm CMOSファブ向けに300mm QST基板を提供するための緊密なパートナーシップを確立した。IMECは25年10月に報告された300mm Ganパワーデバイス開発プログラムで、300mm QST基板を使用してGaNパワーデバイスを開発すると発表した。650V耐圧品の開発を手始めに、1200V以上に開発を進め、AI(人工知能)データセンター、産業用途、自動車用途向けに展開する。
初期評価の結果、IMECは、SEMI規格を満たした信越化学の300mm QST基板上に独AixtronのHyperion MOCVD装置を使用して、5μm厚の高電圧GaN HEMT構造を作製することに成功した。これはSEMI規格に準拠した基板において、650Vを大きく上回る800V以上の破壊電圧の世界記録を達成し、優れた面内均一性を示している。この結果は、GaNの熱膨張係数に適合したQST基板が、大口径であってもGaNの結晶を成長させる性能を安定して発揮することを表している。
GaNは、従来のシリコンウエハー生産ラインが使用可能なため、大口径化による生産コスト低減が期待されている。だが、シリコンウエハー上へのGaN成長は大口径になるほど反りなどの課題から生産歩留まりが低くなり、実用的な量産が困難だった。この課題を解決するのが300mm QST基板で、シリコンウエハー基板上では不可能だった反りやクラックの無い高耐圧向け厚膜の300mm GaNエピタキシャル成長を可能とし、デバイスコストを大幅に削減する。
信越化学はこれまで、150mm、200mmのQST基板の設備増強も進めてきており、現在QST基板の300mm量産化にも取り組んでいる。
QST基板は現在、国内外の多数の顧客でパワーデバイス、高周波デバイス、LEDデバイスなどの開発で評価が進められている。また、AIデータセンター向け電源に対し、実用化に向けた段階にある。150~300mm QST基板のラインアップをそろえることで、GaNを用いたさまざまなデバイスの普及を加速することが期待されている。








